口裂け女

お題:口裂け女/くろひつじチョロ松十四松小説

「たっだいまー!」
「あー、おかえりー」

 玄関の戸を開けて、元気よく帰ってきたのは五男の十四松だった。僕は居間に寝転がって、声だけで出迎える。
 今日は面接だったのだが、やはりボロクソに言われて不採用。十四松の元気さが羨ましいくらいに、やる気がない。
 そんな風に落ち込む僕のことなどつゆにも知らず、十四松は居間まで上がってくると、僕のそばにちょこんと正座した。

「……なに?」
「チョロ松にーさん『口裂け女』って知ってる?」
「え?都市伝説の?」
「そう!それ!」

『口裂け女』の都市伝説。
 口元を大きなマスクで覆った女が「あたしキレイ?」と聞いて回る、岐阜県が発祥とされる都市伝説だ。マスクをとった下には、耳まで裂けた大きな口があるという。

「それがどうかしたの?」
「さっきそこでね、遭ったんだー」
「はぁ?!」

 え?なに?口裂け女が近所に出た?
 それ流行ったのもう何十年も前の話だよね?
 それがなんで今頃、しかもこの辺うろついてんの?
 てか、淡々と話すコイツ怖すぎ!

「……で、なんでお前は無事なの?」
「えー?
 『あたしキレイ?』って聞かれたから、うんキレイだよ!って言ったら『これでもぉ?』って言いながらマスク取ったんだけど、マスクの下、口の端が裂けてたんだ。
 裂けてたとこは、なんか乱暴に縫ってあったかな。でも、きれいなことには変わりなかったらから、うん!キレイだよ!って言ったんだー。
 そしたら『そう、ありがとう』って言って、どっか行っちゃた」

 にこにこ笑う十四松に脱力した。
 こいつはそう言うやつだよ。
 でも、そうか、イマドキの口裂け女は「それでもキレイだよ」って言うと居なくなるんだな。

「そっか、よかったな、無事で」
「うん!」

 そんな会話をしていると、なんとなく付けていたテレビに、緊急速報の通知が入った。なんだろうと見ていると、赤塚区で無差別通り魔事件発生というニュース。
 犯人はマスクをした女で、声を掛けてきて、気に入らない答えをした人間にを持っていた大きな包丁で、切りつけて回っているらしい。

「そういえば、あの口裂け女さん、手に何か持ってたかもー?」

 十四松の言葉に、僕はあわてて玄関の鍵を掛けた。
 そして、

「……本当よかったね、無事で」
「うん!」

 十四松は、ただにこにこと笑っていた。

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