ゆきおんな

お題:雪女/いまゐカラ松小説

気が付いたら外にいた。真っ暗な空の下で吹雪が吹き荒れ、コートを身にまといブーツを履いている自分の姿をみたカラ松はなんて季節はずれな夢なんだろうと思う。そう、自分はいま夢の中にいるのだと瞬時に判断した。

夢の中にいる、とは言っても実際に行っているわけではなく肉体はそのまま布団の中で寝ているのだがただ直感的にこれは夢だと理解することが出来る。いわゆる明晰夢というものらしい。

「なんだ、ここは……なんでこんな場所に?」

収まる気配のない吹雪の中でカラ松が言う。辺りを見渡してみても暗さと突風では何も見えずただ真っ暗な闇だけが目の前に広がっていた。この気候では寒いはずなのに夢の中だと自覚しているからか不思議と寒さを感じることはなく、雪に埋もれたブーツを動かしてザクザクと歩いてみてもやはり雪の音はするものの冷たさを実感することは無かった。

「すごい、夢なんて久しぶりに見たような気がするな……」

ここしばらくは布団に入ればすぐに眠りに落ちてしまい、夢を見ることもなく朝を迎えていたカラ松は久しぶりに見れた夢に興味を持ち、このまま夢の続きを進めることに集中する。

とりあえずはこの吹雪をしのげる場所へ行かなくては……このままでは凍死してしまう可能性がある。夢とはいえ、このような気持ちを抱けば妙な緊張感が胸へと伝わる。そんな緊張感を抱きながら雪道をやみくもに歩いていると何も見えなかった空間に突如明かりが目の前へ現れてカラ松はそこへとたどり着く。

「山小屋…か?」

着いたのは一件の山小屋のような小さな建物だった。木で建てられたその建物の窓からは淡いオレンジ色の明かりが漏れている。

助かった、これで朝まで寒さをしのぐことができる! カラ松は扉を二、三回叩いた。

「……こんな時間にどちら様?」
「ああ、こんな夜更けにすまないマダム……この吹雪でどうやら道に迷ってしまたらしい、どうか明日の朝までかくまってはもらえないだろうか」

しばらくしてガチャリと鍵を回す音がして扉が開いた。中から出てきたのは一人の女性。腰の位置まで伸ばされた長いストレートな黒髪の女性はカラ松の突然の訪問と回りくどい挨拶に嫌な顔を見せることなく迎え入れてくれた。

「寒かったでしょう、どうぞごゆっくりくださいな」

部屋の中は案外広く綺麗に掃除が行き届いていてほこり一つ見当たらないほどだったが真ん中に置かれた暖炉にはなぜか火が灯されておらずカラ松が不思議そうな表情を浮かべていると女性が察したように言う。

「ああ、その暖炉ちょっと壊れてしまっていて使えないんです……」

そう言いながら飲み物の入ったマグカップをカラ松に手渡した。暖炉でも使えなくなることがあるのか、と思いながらもカラ松はお礼を言い受け取ったマグカップの飲み物を一口飲んでからその味に違和感を覚えた。

「……水?」

マグカップに注がれた飲み物は透明で口に入れた瞬間、それが水なのだとハッキリわかる。それまで寒さを感じなかったカラ松だったがそれがお湯やぬるま湯などではなく冷たい水なのだということは理解することが出来、ますます違和感が強くなっていく。

「お口に合いました?」

女性と目が合った瞬間、ふっと優しい微笑みを浮かべられて思わずこちらも笑みをこぼしつつ今度は女性の姿にも違和感を覚えた。暖炉のついていないこの家の気温は限りなく低いはずなのにも関わらず女性が身に付けているのはほんのりとした薄い水色の着物1枚のみ。

この状況からカラ松はある一つの仮定を立てていた。それは昔、弟に付き合わされて怖い映画を見ていたのだがその内容が主人公が雪山で遭難しさまよっていたら一件の山小屋にたどり着き中に入ったら雪女と遭遇して凍死させられてしまうという実にショッキングな結末で弟に泣きつかれたことをぼんやりと思い出した。今の状況はこれに似ているのではないか。

「……ひ、」

そんなことを考えていたら女性に突如肩を叩かれた。振り向いた瞬間、見たその光景に思わず声を漏らす。女性の長い黒髪は白色の髪に変わっており、目は赤色の瞳でこちらを見据え、口を尖らせて笑っていたからだ。その姿はまさしく映画で見たあの雪女と同じで。夢ながらにこれはヤバイのではないかと直感的に思ったからカラ松は肩に乗せられた手を振りほどこうとするが力が強くなかなか離すことが出来ない。

「お客人、どうかされましたか?……そんなに震えてまだお寒いのでしょう、私も寒いのです……だから、あたためて下さいませんか」

その言葉で自分が震えていることに気が付いた。そしてここで最後に気づいた違和感、それは先程まで感じなかった寒さを今、実感しているということ。

「あ……」

寒い寒い怖い。夢なら早く覚めてくれないか。目の前で笑う雪女ともう一度目が合った瞬間、そこで目の前が真っ暗になった。

「……はっ、」

次の瞬間、カラ松は動かない体を思い切り動かして飛び起きた。ドッドっと心臓が脈打っているのがわかるくらいに息は乱れ、冷や汗をかきながら意識を取り戻したカラ松は飛び起きたのが布団の上で夢から目覚めたのだとわかると安心感からホッと胸をなで下ろす。

どうやらまだ朝方のようで弟達はまだ寝ているようだった。その寝顔を見てまた安心を覚え、なんて嫌な夢だったんだろうと思いながらももう一眠りするため布団へ再び横になった時、それまで汗で火照っていた体が急激な寒さに襲われた。

今は八月。部屋にはエアコンと扇風機が設置されていて今は扇風機が弱で回っている程度でいつもならこの時間帯でも少し暑さを感じてしまうはずなのに、既にひんやりと体中が冷えてしまっていて布団を被らずにはいられなかった。

「おかしいな……なんでこんなに寒いんだ、震えが……止まらない」

伸ばしていた足を丸め、縮こまりながらなんとも言えない寒さに不安がつのる。隣で眠る弟に助けを求めようと手を伸ばしかけたその時、自分のすぐ後ろで声がした。

「ああ、あたたかい」

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