進もう戻ル進んで戻レ進んだ其処に意味は在るか

お題:遊園地/テーマパーク/坂倉花梨おそ松カラ松チョロ松一松十四松トド松小説

様々な色に発色するイルミネーションが遠くで光る。
辺りは明かりのある方とは違い静かで、闇が2人を覆って今にも消してしまいそうだった。
ハァハァと切れる息。しかし駆ける足を止めるわけにはいかない。後ろを確認しては前へと走る。
数十メートル先の喧騒、せめてそこまで行けばきっと――――

「もっ・・・もうぼく、だめだよっ・・・・!!!」

「あきらめんな!っ・・あっちまで行けば!!
誰かに助けてもらうんだッ!!」

自分と同じ顔が苦し気な顔をして、言葉とは裏腹に離すまいと握る手に力を入れる。
ガサガサと草を掻き分け走る2人。体中には枝やらで作った掠り傷。それ以外にもズグズグと痛む肩、頬、紫色に変色した横腹。走り過ぎて足も痛い。それでも走り続けなければ、ここで諦めたらもう・・・帰りたいところへは絶対に戻れなくなってしまう。
後ろからやって来る自分達よりも数倍大きな影。
もう一度振り返り、目を見開いた。

「―――――ッ!!!!!」

ガンッ!!!

ハッと目が覚めると視界に飛び込んて来たのは見慣れた天井だった。
息を乱しながらも額を伝う汗を拭う。左右を確認するとまだ寝息をたててすやすやと眠る弟達。
時計を見ると朝の8時だった。普段であれば二度寝する時間だが、これ以上眠る気にもなれない。
チョロ松は布団から這い出ると、部屋を出て居間へと向かった。

“またあの夢だ”

昔から繰り返し見続けているあの夢。忘れかける度、忙しない映像は夜中に彼を苦しめる。
場所は決まって林の中。そこを2人で駆ける夢。前の方には色とりどりに輝く明かりが煌いており、そちらへと向かってひたすらに走る。
しかしあそこに辿り着けたことはない。
毎回、あと少しという所で後ろを追ってくる誰かに頭を強く打たれ、そうして飛び起きる。毎回毎回、走っても走っても自分よりも大きな影は必ず自分を捕まえる。
それだけじゃない、この夢にはもう一つ不可思議な点があった。

“あれは僕じゃない・・・あの2人は―――”

「あらチョロ松起きたの?おはよう」

思案しつつ居間で朝のニュースを見ていると、松代が入ってきて意外そうな目でチョロ松を見た。ニートである彼が普段この時間に起きてくることはない。起きるとしてもアイドルのライブぐらいで、居間でパジャマ姿でゆっくりしているなんてことは珍しかった。

「おはよう母さん」

「暇なら洗濯物干すの手伝ってくれないかしら」

「あー・・・今丁度顔洗いたくなったから洗ってくる」

「待ちなさい」

「う゛ッ・・・」

誰しも楽はしたいものだ。
雲行きの怪しい内容にチョロ松は席を立とうとしたが、それを松代が制止する。
無理矢理なんとか逃げたいところだが、ここで逃げては朝食に何を盛られるかわかったものではない。

「・・・わかったよ、手伝う」

「流石長男は違うわね
トド松はこの前逃げたからそれなりの罰を受けてもらったわ」

「そ、それなりって何したの・・・」

「本人に聞いてみなさい」

「トラウマになりそうだからやめとく」

松代に盾突くべからず、これは松野家の鉄則だ。立ち上がったチョロ松は、あいつもバカなことをしたなと苦笑しつつも松代について隣の部屋へと移動する。

そしてはぁ、とため息をついた彼は小さな声で呟いた。

「僕は長男にはなれないよ」

「今なんか言ったかしら?」

「ううん、さっさと洗濯物畳んじゃおうよ
うわ、6人分って多いね」

「今更よ」

松野家長男松野チョロ松。
彼には昔、上に2人の兄がいた。

それは小学校低学年の頃。彼は家族で地元から数駅先にできた遊園地に遊びに行った。
松代と松造、チョロ松は勿論、弟の一松、十四松、トド松。
そして、兄であるおそ松とカラ松。
テーマパークの敷地の広さにデッケー!!と叫び、彼らは入って早々パーク内を駆け回った。6人兄弟となるとなかなか家族で遊びにというのは難しく、彼らは貴重な時間に全力を賭して遊び回った。
そして帰る頃、おそ松とカラ松がいないことにチョロ松とトド松が気付いた。
6人もいると1人2人消えてもなかなか気付かないもので、当時消えた2人とタッグを組んで悪さをしていたチョロ松とトド松がパークを出るギリギリで気付いたのだ。
駆けずり回っている途中に逸れたり鉢合わせしたりを繰り返していたが、途中から2人の姿を誰も見ていない。
これはおかしい、ということになり、パークの係り員に事情を話し、迷子放送を流してもらったり、周囲を捜索してもらった。4人も止める両親を振り切って探し回ったのだが・・・・・

2人が見つかることはなかった。

遊園地側のスタッフも総動員、警察にも連絡してもらったが駄目だった。
あれから10年以上の歳月が経つが、2人は未だに体すら見つかっていない。
拉致されたかそれとも何かしらの事件にでも巻き込まれたのか。どちらにせよ2人が生きている確率は小数点以下だ。それでもこの家では2人の葬儀が行われたことはない。勿論遺影もない。
いつかひょっこりと帰ってくることを願って・・・極僅かな希望にすがっていた。
突然自分達の半身を失くした4人は戸惑い、そして毎日泣き喚いた。特におそ松の相棒であったチョロ松と、カラ松の相棒であったトド松の癇癪はそれはそれは酷かった。
それでもいつまでもいない人間を求めるわけにはいかない。母、松代は4人の中でも一番上であるチョロ松に3人の兄になるように言った。今でもチョロ松は納得がいっていない。自分はおそ松やカラ松の変わりはできっこない・・・しかし、あの時誰かが長男をやらなければ前へは進めなかっただろう。

『今日からおれが兄ちゃんやってやるからいつまでも泣いてるな泣き虫!!男だろ!!』

『だっておそ松もカラ松も帰ってこないんだぞ!!ぼくら6人で1つだって言ったじゃないか薄情モノ!!』

『おれだってあいつらに会いたいよ!でもいつまでも泣いてたって2人共帰ってくるわけじゃないだろ?!』

あの日のチョロ松とトド松の喧嘩は酷かったな、なんて今では笑い話だ。次の日からトド松はチョロ松を含む兄らを呼ぶときに「兄さん」と敬称をつけるようになった。彼なりの割り切りであり、チョロ松に自信をつけてもらおうとの計らいだったのだろう。
こうして4人となった6つ子は、ぽっかりと空いた穴をそのままに今の今まで過ごしてきた。
それでも時間というのは心の傷を忘却という方法で癒してくれるもので、2人のことは徐々に家族の中で薄い記憶になっていった。
そんな折、チョロ松は件の夢を見るようになった。
あの2人は消えたおそ松とカラ松だろう、とチョロ松は思っている。まるで『おれ達を忘れるな』とでも言うように、悪夢は何度も何度も幼きあの日のおそ松とカラ松を殺す。
先の明かりは恐らく遊園地のものだろう。記憶が正しければ、あの遊園地の周りは林で囲われていた筈。
2人はそこを走っていた。何か大きなものに追いかけられて。
林だから熊か何かだろうかとも思っていたが、最近はあれが人間なのではと思い始めている。
小さい子供にとって、大人は大きな怪物だ。
とすればだ、あの夢が2人が実際体験したこととなれば、2人は殺されてあの時既にこの世にはいなかったことになる。

“バカバカしい・・・”

3人にはこの夢については話していない。夢は所詮夢。現実に起きたことが夢に出るなんてアニメか漫画の世界くらいだ。
だがここまで何度も同じ夢を見ていると気になってくるのが人間という生き物。チョロ松は何度もあの遊園地に足を運ぼうとした。・・・しかしどうにも気乗りせず、あの日から今日まで、一度も遊園地を訪れたことはない。

もしかするともう潰れてマンションなんかになってしまっているかも、そう思うと胸が痛くなる。

“せめて、体だけでも見つかれば割り切れるのに”

体ごと消えてしまったというのが質が悪い。もしかするとどこかで生きているのでは、という希望を持たせてしまう。
そんなことは現実的に考えてあり得る筈がないというのに。頭ではわかっていても望んでしまう。縋ってしまう。
空いた穴はそれほどに大きなものだった。

「チョロ松兄さんは何味にする?」

「えっ?」

「アイス
オレンジとチョコあるけど」

「オレンジ」

「なら丁度だね、はい」

考え事をしていたチョロ松は突然話しかけてきたトド松に驚いて求人誌から顔を上げる。アイスの味を聞かれて答えれば、トド松は箱の中からオレンジのアイスバーを取り出してチョロ松に手渡した。そうして猫と戯れている一松にはチョコのアイスバーを渡し、バランスボールでゆらゆらしている十四松にオレンジを渡すと自分はチョコバーを取って空箱を適当な所へ放る。
チョロ松の隣へ座り込んだ彼は求人誌を覗き込んで人の悪い笑みを見せた。

「まだ就職諦めてなかったの~?」

「諦めるわけねぇだろ
お前も仕事探せよ、いつまでもこの家にいるわけにはいかないんだから」

「ボク一生バイトでもいいし」

「世の中正社員以外は求められてねぇんだよ
僕だってバイトで生活できるならそうしたいけど」

現在ニートな松野家の4つ子。これではきっと6人揃っていたとしても同じだろう。
シャリシャリとアイスを食べながらもチョロ松は求人誌のページをめくり、トド松は一緒になって求人誌を眺める。日常の何気ない一コマだ。

「・・・・なぁ」

「なーに?
あっ、ここは?チョロ松兄さんパソコン出来るんだし、事務処理とか」

「蹴りつけないか」

「え、ニートの?」

できるんならしてるんだけど、と苦笑いするトド松。対してチョロ松は首を横に振る。この時の一松の安堵した声は聴き間違いではないだろう。
本当は言うべきではないのかもしれない。しかしこのまま一生ズルズル引き摺って行くにはこの過去は重過ぎる。
何も見つけられないにしても自分達の納得がいくまで、せめて探すべきだ。

「おそ松とカラ松のことだよ」

「えっと・・・その話はもう」

「いつまでも逃げてても仕方がない
僕らであいつらの痕跡を探すんだ」

「10年以上も前のあいつらの痕跡を?
警察も見つけられなかったのに?」

「別に何かを見つけなくてもいい
僕らの目で見て、何もないことを確かめるんだよ」

「あの遊園地に行くんすか?」

「そうなる」

気乗りは正直しない。だがまずは、2人がもう生きてはいない、という事実だけでも直視すべきだ。
いつまでも小さな希望にすがっていては前に進めない。生きている人間は前に進むべきだ。
このニート暮らしとてそう。もしかすると2人が帰ってくるかもしれない、その時に4人がいなくなっていては寂しいだろう、とだらだら実家に居続けている。
このままでは駄目だ。

「チョロ松兄さんは直視できるの?
あの2人がどうなったのか、それを見て」

「・・・・するよ
でないと僕ら駄目になる
いや、もう駄目になってる」

「ヒヒッ、それもそうだね」

「う゛ーん・・・・気乗りしないけどわかった
ボクもいつまでもカラ松のこと引き摺ってたらダメだよね」

ずっと避けてきた悪魔の遊園地。当時働いていたスタッフなんかでもいれば何か話を聞けるかもしれない。
ここで、十四松が悲しそうな顔で呟いた。

「せめて、家に帰してあげたいよね」

「・・・・葬儀、あげてやりたいな」

葬儀、という言葉にビクッと肩を揺らしたが、十四松は「そうだね」と笑った。

そうと決まれば情報収集だ。まずはトド松のスマホを使い、今あの遊園地がどうなっているのかを調べた。
行ってみて別の建物が建ってました、なんて笑えない。何より小さい頃に一度行ったきり、道なんて覚えていなかった。
幸い駅名を覚えていた為、駅名で遊園地を探したところ、どうやら遊園地は随分前に閉鎖されてしまったようだった。
それも閉鎖されたのはおそ松とカラ松がが失踪してから半年後。

「見てこれ」

トド松はスマホの画面の一文を指す。そこには遊園地の事件隠ぺいについて書かれていた。
この遊園地、実は子供の失踪者が後を絶たなかったらしい。しかし遊園地側はこれを隠蔽。保護者にもうまく言って凌いでいたようだ。それが匿名による電話が警察に入ったことで明るみに出て、経営不振になった遊園地は閉鎖されたのだそう。
これを知って4人は驚愕した。
恐らく遊園地側は警察にも連絡を入れてはいないだろう。ということはだ、あの時・・・・自分達で警察に連絡していればせめて、体だけでも自分達の下へ帰って来てくれたかもしれない。

「こんなことって、っ・・・」

「失踪者20人強・・・・こんなになるまで気付かなかったのかよ」

「この中に、おそ松とカラ松もいるのかな?」

「どうだろう・・・でもやっぱり失踪理由はわかってないみたい」

失踪者の捜索が警察によって行われたが見付からず、結局捜査は打切り、事件は未解決のまま幕を閉じた。
遊園地は撤去の金もなく、現在は当時そのままの状態で放置されている。失踪事件のこともあって今は心霊スポットとして有名になっているようだった。
なんでも失踪した子供の幽霊が出てくるとか。

「やっぱり行くのやめない?」

「何、トド松ビビってんの?」

「びっ?!ビビってないけど?!!
・・・・ただここに見に行っても僕らが見つけられる情報なんてないんじゃないって話」

行くだけ無駄、彼はそう言いたいらしい。警察が念入りに捜査しても見つからなかったものをド素人の自分達が見つけられるわけがない。
チョロ松は何かを見つけることよりも、自分達の足で見に行って、何もないことを自分の目で確かめることが必要なんだと言おうとした。だがトド松はそれよりも先に言葉を続ける。

「それにもう・・・・・これだけで十分だよ
2人はもう帰ってこない・・・カラ松ももういない、よくわかった」

スマホの電源を落とすとトド松は足を抱えて丸くなってしまった。空いた穴は一生塞がらない。自分の相棒はもう帰って来ない。どんなに嘆いたとて覆されない運命はチョロ松が長男となった日に覚悟した筈だが、それでも微かな希望に縋らずにはいられなかった。それは他3人も同じだ。

「ここ、今は閉まっちゃってるんだよね?
不法侵入したら捕まっちゃうから、ぼくも行かないほうがいいと思うッス」

「不法侵入なんて今更でっしゃろ」

「そうでんな~
でも一松はん、古い遊園地は危険がいっぱいでっせ?
あの、だからねチョロ松兄さん
行くのはやめとこうよ」

普段は基本的に3人に着いていくスタンスの十四松がはっきりと「やめとこう」と言った。彼としてはこれ以上、2人に傷付いてほしくなかった。それ故の発言だ。
彼の相棒である一松はここにいる、だから決して強く何かを言える立場にない。それでもこの2人に少しでも笑っていて欲しかった。

「幽霊出るって書いてあるし
建物も古くなってるから危ないかも!!ねっ?!チョロ松兄さん・・・・・」

「・・・・そうだね、変なこと言い出してごめん」

「謝らないでよ、おれも気になってたし
トド松だってそうでしょ」

一松の問いに対し、トド松は丸くなっているままでありながらもこくり、と頷く動作をする。・・・かと思えば、トド松は唐突にガバッと立ち上がった。突然の動きに3人は目を丸くしてトド松を見上げたが、トド松は目をゴシゴシと袖で擦るとパンッと手を鳴らした。

「はいっ!もうシリアスタイムはおしまい!!
これから飲みにいこ!!」

「はっ?!まだ3時だぞ?!」

「いいのいいの!!」

「金は?」

「ないからチョロ松兄さん持ちで」

「ごちになりマッスル!」

「はぁっ?!勝手に決めんな!!俺だってねぇよ!」

「じゃあ宅飲みにしようか」

「ん~そのくらいならあるかも
十四松兄さんは?」

「5円!」

「あっハイ」

「金ねぇのに提案すんなよ・・・」

結局ここからはなし崩しのようにコンビニで酒を買ってきて宅飲みとなり、そこからのノリで雀卓を囲んでいつの間にか寝落ちした。

数日後、チョロ松を除いた3人は2階の部屋でダラダラとニート生活を満喫していた。

「そういえばチョロ松兄さんは?」

「ライブだって!!遠くだから帰りも遅くなるって言ってたよ!!」

「一か月前にも行ってなかったっけ
どこから金出してるんだろ」

普段は3人と同じく、受ける気も無い雇用冊子を呼んでいるチョロ松がいないのに気付いたトド松が問うと、十四松がそれに答えた。チョロ松は地下ドルの橋本にゃーというアイドルにハマっており、時々そのライブに出かけてはデレた顔で帰ってくる。最近売れ始めて地方での活動を始めたらしく、彼も遠征費がうんたらと頭を抱えていた。

「ふーん、じゃあ着る服間違えたのかな」

「服?」

「いつもチェック柄のやつ着ていくでしょ?
そっちは残っててパーカーの方がなかったから」

今頃電車の中で狼狽えてる頃だろうかとトド松は他人の不幸にニヤニヤと人の悪い笑みを見せる。
パーカーとは彼ら4人が普段愛用している松模様がプリントされたパーカーのことだ。チョロ松は緑、一松が紫で十四松が黄色、トド松はピンクを着ている。松代がパーカーをダースで買ってきた為に色は6色あり、赤、青、緑、紫、黄、桃。
その内の赤と青は誰も着ずにそのままタンスにしまわれている。
だがこのパーカーは4人でいるか、外に出ない時くらいしか使用しない。友人に会ったり、プライベートで何処かへ出かける時はそれぞれ私服をもっている為そちらを使用している。十四松が言うに、今朝野球に出る時に見たチョロ松がパーカー姿だったとのことなので間違いない。
朝に着替える時、パーカーが無いものだから家にいるかコンビニにでも行っているのだろうと思っていたがこれは愉快だ。一松も少しばかり噴き出したのだが、数秒後、その笑顔が消えて真顔になった。どうしたの?とトド松が聞くと一松はこの前、と呟く。

「この前?」

「・・・・チョロ松兄さん、行こうって言ってたよね」

「何処・・あっ・・・・」

     遊園地、

数日前に話した内容が頭を過る。
十四松は玄関でチョロ松と鉢合わせ、パーカー姿だったから何処に行くのかと聞いたらしい。しかし彼は「にゃーちゃんのライブ」と答えたそうだ。
・・・まさかと思うが1人であの遊園地へ行ったのだろうか?
あの話はあそこで終わった筈だ、彼も行かないと言っていた。
しかし一度気にすると不安はどんどんと彼らの中で大きくなっていく。

「十四松兄さん、チョロ松兄さん何か持ってってた?」

彼はライブに行くときに必ずリュックを持っていく。しかし十四松は少し考えた後、

「何も、持ってなかったかも」

ますます3人の顔色が悪くなる。
あそこは今や有名な心霊スポットだ。幽霊云々を信じているか否かはともかくとして、廃遊園地の中は恐らく危険だろう。
それに実際、彼らの上2人の兄はあそこで姿を消している。・・・3人目の行方不明者が出ないという保証は何処にもない。

「・・・トド松、遊園地の場所」

「この前調べたから知ってる」

「チョロ松兄さん回収にレッツゴー!!」

勢いよく立ち上がった彼らはバタバタと玄関へ走り家を飛び出した。
やはりチョロ松は2人のことが気がかりで1人、弟達に心配をかけない様に遊園地へ行ったのだろう。チョロ松は長男を始めてからそういった部分で隠し事や我慢をすることが多くなった。長男と言っても生まれた年も月も日付も同じなのだから気にしなくともいいものを。なんのための6つ子だ。・・・いや、今は4つ子か。
とにかく嫌な予感がして仕方がない。
その予感が的中しないように、と祈りながら彼らは忌まわしき遊園地へと走った。

電車で数駅、バスに乗ってやって来たそこは背の高いバリケードで囲われており、外からでは中がわからないようになっていた。
バリケードに貼られた張り紙には『立ち入り禁止』の文字。これを3人は平気な顔をして登る。
このくらいは昔、6人でいた頃に散々やってきた。
上まで来たところで飛び、向こう側へ足を付けた彼らは周りを見る。車の止まっていない駐車場、奥に見える入場ゲート・・・ポップ体で遊園地の名前が書かれている錆びた看板がなかなかに不気味だ。
少しばかり気が引けたが、3人は入場ゲートをくぐり遊園地の中へと進んだ。勿論遊園地の中には人っ子一人いやしない。いたらいたでも困るのだが。
とにもチョロ松を探さなくては、と3人は辺りを見渡す。
大きくなったからか、遊園地は昔に来た時よりも狭く見えたがしらみつぶしとなると少し時間がかかりそうな広さだ。それに建物は劣化しているらしく、城のような建物も窓ガラスが割れていて、少しばかり壁も崩れ落ちている。中に入る時は注意が必要だろう。

「別れて探す?」

「ボク無理かも・・・・」

「だよね」

暗闇が苦手なトド松、幽霊の類もあまり得意ではない。別れて探せばそれだけ手間が省けるというものだが、3手に別れるのは無理か、と一松は早々に手分けして探すことを頭の中から弾いた。まずは一番危険そうな城の中から探してしまおうと頭を切り替える。
屋内が危険なのは見た目から見てもわかることだが、チョロ松がここに来ていた場合、外ならまだいいが城の中にいられた場合は怪我をする率も高い。動けない状況にあったら殊更最悪だ。
さっさと探し出して帰ろう、と一松を先頭に3人は城へ向かった。
近付くと一層不気味さに磨きのかかるそれにトド松に限らず一松までも顔が引き攣る。まぁ、十四松もいるし大丈夫だろうと足を進めると中は昔に見た綺麗な装飾は削げ落ち、天井の方もライトが落ちかけているのが見えた。

「うわっガラス」

「暗っ・・・懐中電灯持ってきてよかった」

「懐かしいけど不気味だね」

キャラクターがあった場所には骨組みだけが残っており、それが階段の方に腕のようなものを伸ばしている。
確かこの城は、中にいる敵を剣で倒していくアトラクションだった筈だ。敵はハリボテで出来ており、触れると倒れる仕組みで確かおそ松が力を入れ過ぎて1つ2つ壊した記憶がある。
所々欠けている階段を注意しつつも上ると、先の通路を道なりに進んでいく。あまり複雑な構造はしておらず、迷うということはない。所詮は子供向けの施設である。
ゆっくりと進んでいく3人は最後の扉を開ける。この扉を抜けるとラスボスの竜のハリボテがあって、それを倒すと景品のお菓子がもらえるのだ。そのお菓子がちゃっちいものだから6人で文句を言って松代と松造に怒られた。
それにしてもここにチョロ松はいなかったなと一松は安堵しつつもドアノブを捻る。まぁこの遊園地にいるかもしれない、というのも飽く迄も想定だ。スマホで連絡を取ろうとしても電話にも出ないものだから実際何処にいるのかもわからない。もしかすると案外本当にライブに行っており、電話に出れないだけなのかもしれないが。
ラスボスの部屋には特にこれといったものは残っていなかった。大きな竜のハリボテは折れて放置されており、装置も作動するとは思えない錆び様だ。
一応スタッフルームの方も覗いておこう、と3人は関係者通路の方へと歩いていく。鉄でできた階段は先程通って来たところよりも丈夫で幾分安全だった。しかし天井が崩れ、雨ざらしとなっているそこは錆びていて劣化しているところも多く、注意は怠ってはならない。

ガッシャアアアアッン!!!

「「「?!?!!」」」

何かが落ちて折れる音に3人は驚いて足を止める。そらみたことか。こんなところ早くチョロ松を見つけて出なければ命がいくつあっても足りやしない。
ヒェェ・・・とトド松が怯え顔で十四松にくっついていると、十四松は音のした方を見ながら呟く。

「今の声、誰の声?」

「えっ、声なんて聞こえてないけど」

「十四松兄さん怖いこと言うのやめてよ?!」

「ん、んー・・・・ごめんね」

いきなり怖いことを言い出す十四松にトド松は泣きそうな顔で訴える。対して十四松は瓦礫の落ちる音に混じって聞こえた微かな声に首を傾げたが、自分にしか聞こえなかったこともあり、空耳だったのだろうと視線を前方へと戻した。
さらに奥へと進み、角を曲がると城の側面部に沿って通路があった。どうやら照明用のものらしい。
そのまま進んで行こうとした彼らは通路の先に2人の人影を見た。人がいたことに驚いて3人はその場で足を止める。
2人は通路の中央付近におり、此方には気付いていないのか壊れた通路の下の方を覗き込んでいた。恐らく先程の音源はこの通路が壊れた音だろう。
その人物の横顔を見て、3人は息が止まりそうなほどに驚いた。

自分達と全く同じ顔

横から見てもわかるほどにそっくりそのまま自分達と同じ顔をした2人。しかも何故か今着ているパーカーと色違いの、赤と青のパーカーを着ている。
一体どういうことなのか、脳が処理の限界を超えて目眩すらし始める。

ありえない

頭がこれ以上見てはならないと警笛を鳴らす。

ここにいるわけがない

彼らは10年以上も前にこの場所で消えた筈だ。この2人がここにいるわけがない。
自分達と同じ背丈の同じ顔。生きていれば恐らくは、こんな風だっただろうという姿。

一松の口がその名を・・・・2人の名前を紡ぎかける・・・・・が、それよりも先に、2人が視線を送る先に見たものへトド松が悲鳴をあげた。

「ッ?!?!!チョロ松兄さんッ!!!!」

この悲鳴に一松と十四松も崩れた通路へと視線を移して驚愕した。
劣化から崩れたらしい通路、その折れ曲がった鉄パイプのような柵に掴まり、今にも落ちそうなチョロ松がそこにはいた。落ちれば死は免れない。それを見ていた2人がトド松の大声でこちらに気付いたようで、目を丸くしてこちらを見てくるがそんなことは関係無い。
何があったのか、考えたくもないが状況を見れば歴然だ。
3人はこれ以上兄弟を亡くしてなるものかと2人の方へと特攻した。

「一松十四松トド松?!?!!なんでこんな所に?!」

「何してんだよあんたらッ・・・!なんなんだよっ!!」

「兄さんから離れろ―――っ!!!」

「うわっ?!ま、まぶっ?!」

「まっ待て!こっちは危な」

「問答無用っ!!」

いきなりの3人の登場に驚くチョロ松を他所に、トド松は2人に向けて懐中電灯を当て、眩しさに怯んで後退る彼らとチョロ松の間に割って入る。その間にも一松と十四松がチョロ松を引き上げると、安全な場所まで移動させた所で一松と十四松もトド松と一緒になって2人の前に立ちはだかった。

「え・・・何これ」

唖然とする赤パーカーの人物は今にも泣き出しそうな3人を前に唖然として問う。何これもクソもない。

「何これ?!こっちが聞きたいんだけど?!!
どうしてこんなことになってんの!!」

怒りからトド松は声を荒げる。
一体何年あんたらを待ったと思ってるんだ。姿を現したかと思えばその体はなんだ。この状況は、どうして、なんで・・・・
言いたいことがあり過ぎて言葉が喉に詰まり、奥から涙が込み上げてくる。
後ろの背景をうっすらと写す体は、既にこの世のものではないことを無理矢理にでも理解させられた。
目の前にして改めて確信する――――彼らは、この2人はあの日に消えたおそ松とカラ松だ。

「なんでチョロ松のこと殺そうとしてんだよ・・・・?」

信じられない、という顔で一松は言った。どう見ても今の状況はそうだろう。
死んだ家族が生きている家族をあちら側へ連れて行こうとする、なんてホラー話はよく聞くが、実際自分達が体験するなんて夢にも思っていなかった。それも化けて出たのが昔行方不明となった兄2人。
隣では十四松が威嚇し、それでも縋るような目で2人を見詰めている。何かの間違いだと言ってほしい、そう訴えるように。

「チョロ松兄さんのこと連れてっちゃだめ・・・・連れてかないで」

もう兄弟がいなくなるなんて耐えられない。これ以上家族を減らさないでくれ。
感動の再開に何故こうもつらい思いをしなければならないのだろう。自分達が一体何をした?

「お、お前ら違、」

「チョロ松兄さんは黙ってて!!」

対立するように分かれる5人の空気に耐えられなくなったのか、チョロ松が弁解を図ろうと口を挟もうとするが、それをトド松は阻む。ここで退いては兄が連れて行かれる。普段であればここで黙るようなチョロ松ではないが、トド松の物凄い剣幕に思わず口を閉じた。
おそ松とカラ松と思しき2人は暫く固まっていたものの、状況を理解し始めたらしく3人の顔を見る。そして、

「・・・・ブフッ!アッハハハハハハ!!!!」

「っ?!?!!」

「そこ笑うとこ・・・?」

いきなり笑い出した。何が面白いのか、腹を抱えて笑う彼に3人は怒りを上げる。

「だってッ・・・!!おま、お前らっ!!」

「ふざけんな!!!なんで?!
ボクら2人のこと忘れたことなんてなかったよ?!なのになんでこんなことするの?!!」

「やっと会えたのにっ・・・・!!!」

危惧していた最悪の形ではあるが再びこうして話ができると思っていなかった分、顔を見たときは驚いたと同時に嬉しかった。どんな形でもいい会えるだけでもよかった。・・・というのに流石にこれはないだろう。
最早どうするのが正しいのかわからない。6つ子らしく彼らと”同じ”になってしまった方がいいのか、話をして改心してもらえばいいのか・・・そもそも彼らに話が通じるのだろうか。
未だ爆笑し続ける彼の隣では、青パーカーの兄弟が眉間に皺を寄せている。青パーカーはそろりとその右手を挙げた。

「あの、」

「何?!てかどっちが何松?!!」

「あぁ、オレがカラ松であっちがおそ松・・・というかお前こそ何松だ?」

「トド松だけdッ・・カラ松?!カラ松なの?!!」

「あ、あぁ、というかお前変わったな」

「変わったのどっちだよバカアアアアア!!!」

「ヒィィイイイイッ!!ヤバイ!!腹痛いッ!!」

「お前いい加減にしろよ、3人共誤解してんじゃねぇか」

「は?誤解って」

「だから僕の話聞けって」

一松一行の後ろにいたチョロ松はやっとまともに自分の言葉を聞いてもらえたと、呆れたようにため息をつく。先程死にかけ・・否、実の兄に取り殺されかけたにしては随分と冷静ではなかろうか。
雲行きの怪しい場の空気。これはもしやまさか・・・一松は嫌な予感に後ろを振り向くともう一度、チョロ松の発言について問う。回答によってはそこの崩れた通路から飛び降りる羽目になるかもしれない。
問われたチョロ松は腕を組みつつも困り顔で答えた。

「ここには僕が勝手に落ちただけ
助かったけどこいつらと今のは関係ないよ」

「は・・・・?」

「どういうことだチョロ松?」

未だ現状を理解できていないらしいカラ松にチョロ松は「大方お前らが僕のことを取り殺そうとしたと思ったんじゃないの」と返してやる。するとカラ松はそんなことするわけないと大きく首を横に振った。おそ松は変わらず爆笑を続けている、いい加減しつこい。

「ってことは、おそ松もカラ松も正気ってこと?」

「だからそう言ってるだろ」

「聞いてないよ!」

「言おうとしたけどお前が怒鳴ったんだろ」

そう言えば先程チョロ松は何かを言おうとしていたような気がする。兄を守ろうと必死だったものだから遮ってしまったが、人の話はちゃんと聞くべきだった。

「じゃあ2人共悪霊じゃないの?!」

「悪rブフォオッ!」

「お前さっきから笑いすぎだぞ」」

「だっ・・・!!俺たちが兄弟殺すわけねぇじゃん!!
お前ら焦りす、ってぇえ?!一松?!!」

「待て待て待て洒落になんねぇからっ!!」

おそ松が言い切る前に一松が通路の崩れた先へと走り、それを慌ててチョロ松、十四松で止めに入る。一松はいっそ殺してくれと顔を真っ赤にして涙ながらに懇願した。

事の次第を説明するには数時間ほど前に遡る事になる。
この日、チョロ松は朝早くからとある駅の近くにある、バリケードで囲まれた敷地の前にいた。
バリケードに貼られた張り紙には『立ち入り禁止』の文字。チョロ松はそこを慣れた手つきで登っていく。
上の方まで来ると一度周囲を見渡し、人がいないのを確認するとトンッとバリケードの中へと降り立つ。
そこには車一台無い駐車場、そして―――――悪夢への入口。あの日に8人でくぐり、6人で帰った遊園地の入場ゲートが不気味に立っていた。

結局彼はここに来てしまった。どうしても自分の中で蹴りをつけておきたかった。朝早くに家を出たが十四松に見つかり、隠すことでもなかったのだが「アイドルのライブに行ってくる」と言っておいた。まぁ無駄な心配をさせる必要もないだろう。
うっすら残る当時の記憶を掘り起こしつつも、チョロ松は古びた入場ゲートをくぐって中へと入る。昔はあんなにも広く見えたの、大人になって再びやって来たそこは酷く狭苦しく思えた。

“メリーゴーランド・・・コーヒーカップ・・・・あそこでソフトクリーム買ってもらって喧嘩になったっけ”

1人3口ずつだからな!!とのおそ松の言葉を破って全員で食いついた2つだけのソフトクリーム。6つ子となるとこういった戦争は勃発しっぱなしだ。4人となった今は分け前が増え、それも少なくなった。
記憶と同じように、色が薄れたアトラクションはどれだけこの過去から目を反らしてきたのかが伺える。

「おそ松、カラ松・・・お前ら、今もここにいるのか?」

まだ6人でいた頃、とある本を皆で読んだことがある。
その本ではとある兄と妹が遊園地に来て、妹が遊園地の悪魔に囚われてしまった。兄は妹を助ける為に悪魔に魂を売る。しかし悪魔は兄を騙し、妹を返しはしなかった。兄は妹を助ける為、無期限の契約書を破り捨てて妹を連れて悪魔の追ってから逃げるお話。
本に描かれていた絵が、チョロ松の中で光に向かって駆ける兄らと重なった。
現実的ではない、それでも思う。もし悪魔があの2人を隠してしまったというのならば、自分の魂でもなんでもくれてやるから返してくれと。
メリーゴーランドとコーヒーカップの間を通り抜けて寂れた遊園地の奥へと進んでいくと、大きな森を模ったのような大きな建物が見えた。記憶が正しければ、確か中のボートに乗って”アリとキリギリス”の童話を見るアトラクションだった筈だ。最後、キリギリスが全員死んでしまった部分が随分と恐かったのを覚えている。
とりあえずは夢で出てきたところへ行ってみよう、とチョロ松は周りの風景を見つつも奥の方、林へと向かっていく。
この遊園地は山と隣接しており、一応フェンスはあるもの、簡単に林の向こうへと行けるようになっていた。

「わっ!!!」

突然背後から大きな声が聞こえた。驚いてバッと後ろを振り向いたが

「あれ・・・?」

そこには誰もいなかった。ただ寂れた遊園地が広がるばかり。
聞き間違えだろうか。聞いたことのあるような声だった気もするのだが・・・・と、前を向いたとき。
目と鼻の先に自分と同じ顔があった。

「よっ!」

「っうわぁああああああああああああ?!?!!!!!!」

「うわっ?!わっ?!なんだよ?!?!!」

「はぁー・・・だからやめとけって言ったのに」

チョロ松大絶叫。そりゃあ目の前に自分と同じ顔があれば驚くだろう。しかし生憎と彼にはあと3人も同じ顔の人間が家にいる。
相手が驚きの声をあげたのもあって後退り、前に2人並ぶ姿にハッとしたチョロ松は、3人のうちの誰かが着いてきたのだと察して何松だ?!と探った。だが誰なのかがわからない。あれだけ一緒に過ごしてきて何松なのかがわからなかった。
パーカーもそれぞれ赤と青。

「びっくりしたー・・・いきなり大きな声出すなよ!!」

「お前それブーメランだぞ?」

「お、お前らッ・・・あっ、さ、さては一松か誰かが」

「チョロ松、頼むから落ち着・・・ん?お前チョロ松だよな?」

「チョロ松だけど落ち着けるかアアアアアアアアアッ!!!」

思わずチョロ松はブンッと拳を青パーカーの同じ顔に対して振り上げる。しかし振られた拳は何かを殴ることはなく、フッと体を通り抜けた。

すり抜けた腕に動揺しつつもチョロ松は目の前の2人を視界に入れる。腕の震えが止まらない。
それを恐怖からだと思いでもしたのか、さらに涙を流し始めるチョロ松に2人は慌てふためく。しかしチョロ松はそれどころではなかった。

「えっ、わ、おどかして悪かったって!!
顔見てわかんない?!もしかして忘れちゃった?!」

「そっそんなわけ!!覚えてるよな?!
チョ、チョロ松?!えっ嘘だろ?!!」

「ッ・・・グズッ・・・覚えてるわボケェッ・・・!!
バカ2人っ、忘れるわけねぇだろッ!!」

忘れられるわけがない。何故今の自分と同じ姿なのかはわからないが、見間違える筈もなかった。

「お前らっ、本当に゛ッ・・・死んじゃっっだの゛がよぉぉ・・・・!!!」

幻覚でもなんでもよかった。ただ会えたこと、それだけで十分だった。
しかし体は半透明、触れることは出来ない。突きつけられた現実は涙を止め処なく溢れさせる。

「ごめんなぁチョロ松、俺たち頑張ったんだけどさぁ」

「わがってっ・・・けどっ!けどでもッ!!」

「わかる?俺おそ松でこっちカラ松
お前らと一緒に生きてたらこんな感じかなーって、お前に似せたんだけど」

「わがるッ・・・ぅう゛ッ・・・ぽいっ、ぞれ゛っぽい゛ッ!なん゛、でッ・・・い゛ぎろよおお゛お゛バカあ゛あ゛あ゛ッ!!!」

膝をついて泣きわめくチョロ松の頭におそ松は手を差し出しかけて、それをギュッと握りしめることで止める。
体が透けている、触れられない、ということはそういうことなのだろう。非現実的だが確かに目の前にいる存在。ずっと探していた、ぽっかりと空いた一生埋まらない穴のパーツ。
少しばかり雰囲気は違ったものの、そこにいるのはあの時にここで消えたおそ松とカラ松だった。

「つらい思いをさせて悪かった」

「っんだよ・・・カラ松のくせにッ・・!!」

「はは、そういう強気なところは変わらないな」

懐かしい掛け合いに涙腺は開きっぱなしだ。どれだけの時、こんな他愛のない会話を望み続けたことか。
恥ずかしいと思い涙を拭うも止まらない。

「お前が来てくれて本当助かったわ~
俺たちここから動けないからさぁ
俺からの熱烈ヘルプ届いた?」

「やっぱりあの夢お前の仕業かよッ」

「夢ぇ?俺はチョロ松来て~ッ!て念じてただけだけど」

「オレもそれ以外は何もしてないぞ?」

おそ松とカラ松の言葉にチョロ松はグズグズと鼻をすすりつつも首を傾げた。あの夢はこの2人が忘れるな、と自分に見せたものではなかったのか。
いや、それよりも今、彼は”動けない”と言わなかったか?

「えっ、ちょっと待て
動けないってどういうことだよ?」

「なんか外に出ようとすると内側に引っ張られてさぁ~」

「多分オレ達の体がこの遊園地の何処かにあって、それが原因だと思うんだが・・・」

「体・・・?は?はぁっ?!わかんねぇのかよっ?!自分の体の場所!!!」

感動の再開も束の間、ちょっと厄介なことになった。

やはりというか、おそ松とカラ松は誰かに殺害されたらしい。本人らもその辺りの記憶は曖昧で、殺された時にどうなったのかはわからず、気付いたら幽霊という形でこの遊園地にいたのだそうだ。
信じがたい話ではあるが目の前に現物がいる以上信じるしかない。

「オレ達は殺人現場を見てしまったんだ
影で見えなくて近付くまでは何をしてるかわからなかったんだが、声をかけるべきじゃなかった」

「逃げ回ったんだけど結局捕まっちゃってさー
縛られて殺されたその子と一緒にどっかの倉庫の中に閉じ込められたんだよな?」

「ああ、それでおそ松の提案で転がっていた石を使って縄を切ろうとした・・・ところまでは覚えてるんだけどな」

2人の記憶はそこで途絶えている。普通に考えるならばそこで殺されたと仮定すべきだろうが、チョロ松の見た夢の中で2人は林を走っていて、そこで殺された筈だ。

「林は?多分夢の映像的にその辺りを囲ってる林の中だと思うんだけど」

「林なぁ・・・・・ダメだ全ッ然覚えてない
カラ松は?」

「遊園地の中なら走ったのは覚えてる」

現在地は童話アトラクションの中。1人だったらその不気味さで入ろうとは思えないものの、知っている人間・・・否、幽霊がいると心強い。
夢の話についてチョロ松が聞くと、2人共知らないと首を傾げた。恐らくは2人がチョロ松を呼んでいたと言うのでそれの副作用的なものなのだろうが、何かから逃げる映像のことを説明しても2人はわからないと言う。

「んー・・・あっ、あー、頭すっげぇ痛かったのは覚えてる!」

「改めて殺されたと思うと腹が立ってきたな」

そりゃそうだろう思い切りぶん殴られていたのだから。
それにしてもこの2人、自分が死んだ時のことを思い出して腹が立つ以外何かないのだろうか。鋼鉄のメンタルか?
まぁそんなところもおそ松とカラ松らしいといえばらしい。
2人も最初こそ現状に頭が追いつかず、死んだと悟ってからかなり泣き暮らしていたそうだ。当時小学生、まだまだこれからの人生だったのに無理もない。まぁそれもじきに泣き飽きて、彼らは家に帰ろうとした。まだ遊園地がやっていた頃、ゲートをくぐる親子連れに紛れて、透ける彼らは外に出ようとした。

・・・のだが、彼らは出ることができなかった。
何度もチャレンジせども外に出られない。多分体がここにあるからだろう、と見当をつけるも自分達では何もできない。
そこで白羽の矢が立ったのがチョロ松らしい。

「そういえば、なんで僕だったの?」

当然のように湧く疑問。
助けを呼ぶとして、何故自分”だけ”だったのか。一松や十四松、トド松も全員呼べばいいだろうに。しかしおそ松とカラ松はバツが悪そうに互いの顔を見つつも苦笑いした。
チョロ松に向き直るとおそ松がわけを説明する。

「俺たち以外にも殺された子供が結構いたみたいでさぁ
悪霊の溜まり場みたいになってんだよ、ここ」

そういえば心霊スポットになっているようなことをトド松が言ってたのをチョロ松は思い出す。マジで出る系の所なのかと少々身震いしたが、よくよく考えれば目の前にいる2人もそれらと同じだ。そう思うと少しは気が楽になった。

「お前はあいつらの中でも一番上だろ?
それに俺の相棒だし!
こういうの頼めんのってチョロ松だけかなーって思ってさ」

「へぇ、そうだったんだ」

「あっ、いや、お前を犠牲にしようとかじゃなくてだな!!
あいつらには少し荷が重すぎると」

「プフッ・・気にしてないよそんなこと!
そんなところだってわかってるなら僕だってあいつらを連れてはこなかった、どうにしろお前らと同じこと考えてたよ」

慌てるカラ松にチョロ松は噴き出す。犠牲にだなんてとんでもない、寧ろ自分を選んでくれたことに嬉しささえ感じる。
それに昔はあんな癇癪持ちだった彼がよく人に気を使えるようになったものだ。カラ松といえば、チョロ松の記憶の中ではすぐに怒りすぐに泣く暴れん坊。彼らも成長していたということだろうか。
幽霊とは死んでから時が止まるものだと思っていた分、少し意外でもある。いや、ここから出ようとしていたのや、此方に呼びかけていたのから考えるに、彼らにも時間経過という概念はあったのだろう。そう考えると彼らは2人ぼっちでずっとここに縛られていたことになる。

「・・・・ねぇ、手がかりがないなら僕が犯人探そうか?
顔の特徴とか少しでも覚えてれば僕が聞き出して」

隠された物を探すなら隠した本人に聞くのが一番早い。遊園地は某大型東京パークより狭い作りとはいえ、家の中で探し物をするのとはわけが違う。それならばまだ、顔の特徴から犯人を探して聞き出す方が賢明だ。・・・と言っても10年以上前のこと、今も同じ顔である可能性は低い上にこの周辺に住んでいるとは限らないが。近所へ聞き込みをするだけの価値はあるだろう。何より彼らを少しでも早くこの場所から解放してやりたい。
しかしこの言葉はおそ松の言葉に遮られる。

「それは無理」

「え?なんで?」

「犯人死んでんもん」

「は?」

犯人が死んでるとはどういう了見か。そもそも何故それをおそ松が知っている?
それに関してはすぐにカラ松の口から語られた。

「この遊園地が潰れてから3年経ったかという時に犯人がここにやって来たんだ
なんの用かはわからないが・・・・・そこをここにいる奴らが憑り殺してしまってな」

なんでも、事務室で何かを探していたところを囲まれて突然の心臓発作( )で死んだらしい。幽霊恐ろしきかな。
その時の2人は自分達の体の在り処を聞き出そうとしていたらしいのだが、一足遅く、既に犯人に息は無かったという。

「ちなみに内鍵かかってるからそのまんま」

「急用ができたから帰っていい?」

「待て待て待て待て!犯人の幽霊は見たことないから危険は少ないはずだから!!」

「そういう話じゃねぇよ!」

敷地内に死体があるとはなんたるデンジャラス、とも思ったがよくよく考えれば今から探そうとしてるブツも同じく死体だ。
とにもそうとなれば余計に長居はしたくないが、手掛かりがほぼ0同然。これは長期戦を覚悟しなければなるまい・・・。

「はぁー・・・他に覚えてることないのかよ?」

「ってもなぁ~覚えてないもんは覚えてないし」

「殴られたらしいし、その時に記憶も飛んだんじゃないか?」

「元々飛びやすい頭してたもんなお前ら」

これでは見つかる物も見つかりやしない。せめて目星でもあればいいのだが・・・・。仕方ない、とチョロ松は腹を括ると、2人の覚えている範囲で遊園地内を探索することを提案した。無暗に林の中を探してもドンピシャで見つかる確率は低い上、スマホで確認するとあの林は奥にかなり広く続いているのがわかった。実質1人で探索するには広範囲過ぎる。
それにこの際つらい記憶を思い出させるのがうんたらなど言ってはいられない。というのも先程から周囲に視線を感じるのだ。
ここには少なくとも生きた人間はチョロ松以外にはいない筈。いるとすれば2人が言っていた悪霊化した被害者くらいだろう。
・・・・・やはり長居は無用だ。

「覚えてる範囲でいいからお前らが逃げた経路を辿ろう
何か思い出すかもしれないし・・・というか思い出せ」

「無茶言うよなぁ」

「無茶させてるのはオレ達の方だろ」

「ま、そうなんだけどさ
じゃあスタート地点行こうぜ」

10年以上も前の記憶を掘り起こせるだろうかとおそ松はうんうん唸りながら腕を組む。どうやら心の傷どうのこうのの心配は無用のようだ。カラ松も特に気にはしていないのか、早速「多分こっちだ」と信用ならない言葉を吐きながら外を指差す。
これより過去の死亡経路の旅、開幕である。

「この先危ねぇし俺が見てくるよ」

「いや、僕も行くよ
ここまで来たんだから」

「大丈夫か?」

「うん、足元もちゃんと見てるし」

ギシギシと鉄でできた通路を歩くチョロ松。それを心配しつつも一緒にあるくおそ松とカラ松。
彼らは城の形をしたアトラクションの関係者通路である、側面部に沿った通路を進んでいた。この通路は城の側面に打ち付けられたような通路で、崩れた天井に雨ざらしとなった部分は錆びて劣化している。力を入れれば崩れるかもしれない。
3人はかれこれ1時間程園内を探索していた。どうやら2人はかなり必死で長い距離を逃げていたらしく、なかなか林に辿り着かない。

「こんな所よく通れたね」

剥き出しの下の方を覗き込めば、わりと高さのある地上が見える。小さい頃に見たらもっと高く見えそうなものだが、こんなところを激走したとは、余程必死だったのだろう。
鉄パイプの手すりを掴むチョロ松は、足元に気を付けつつも前へと進んでいく。向こう側には少しばかり開いた扉。

「そこ入って右だっけ?」

「多分な」

これがまた2人の記憶もかなり曖昧で、何度か行ったり来たりを繰り返して時間を消費していた。まぁ10年以上も前の事だ、これだけ覚えてるだけでも大健闘だろう。
しかしと、チョロ松は実際に2人の体を見つけた場合どうすればいいのか少々悩んだ。2人は確かにここにいるが、実際それはいくら美化してもただの死体だ。それらを運び出すなんてことはドラマやニュースでくらいしか見たことがない。

“やっぱり見つけたら一度あいつらに説明して・・・”

1人では出来ないと早々に単独での行動を諦め、3人に協力を得る方向に頭を切り替える。警察沙汰もいいところだが、事情を説明すればあの3人も協力してくれるだろう。
そんなことをボーッと考えていたのがいけなかったのか、前に踏み込んだ右足が唐突に下の方へとめり込んだ。

バキィッ!!!

「わっ?!」

「はっ?!あっ!チョロ松!!」

「危ないっ!!」

グラリッと体が傾き、咄嗟の判断で視界に捉えた鉄パイプの手すりを掴んだ。ガシャアアアッン!!と下で鉄の板が落ちる音がする中、チョロ松は間一髪、ギシリと軋み、折れ曲がった鉄パイプで落下を回避した。
体が宙に揺れ、空いている方の右手で床に上がろうとするもあと少しの所で手が届かない。

「おいっ!大丈夫か?!生きてる?!!」

「勝手に殺すなっ・・・!!っ・・・クソッ・・」

「す、すまないッ!!オレ達がこんな所へ連れてきたばっかりに・・・!!」

「ふざけんなっ!お前は僕のことッ、止めただろ?!」

勢いをつけて体を揺らせばギシリ、と鉄パイプが軋み、今にもバッキリと折れそうになる。正直手も痺れてきた。
右手をさげたチョロ松はがっくりと項垂れると「もういいよ」と小さな声で言った。

「悪い、俺たちこんなんだから引き上げらんねぇし・・・」

透ける体では弟1人すら引き上げることは叶わない。そのなんともどかしことか。
チョロ松は2人のいる上を見上げると苦笑する。

「お前らのことだから最初からこうするつもりなんだと思ってた」

「んなわけねぇじゃん」

「すまない、チョロ松・・・本当にすまないッ・・・・」

今にも泣き出しそうなカラ松に幽霊が泣くなよと返す。いよいよ手に痛みが走り、少しずつ力が抜けていく。下を見れば落ちたら即死は免れないだろう高さ、先程落ちた鉄の板がコンクリートに打ち付けられてひん曲がっていた。
それでも言うほど恐怖を感じなかったのは恐らく、おそ松とカラ松がその場にいたからだろう。彼らの仲間に加わるのなら、例えこれが仕組まれたことだったとしても甘んじて受け入れられるかもしれない。
もう潔く手を離してしまおう。目を瞑ったチョロ松はゆっくりとその手を離ーーーーそうとしたその時、

「チョロ松兄さん!!!」

叫ぶような悲鳴に離しかけた手に力が入る。何事かと顔を上げれば今度こそ見知った3つの顔があった。

「一松十四松トド松?!?!!」

家にいるはずの弟達の姿にチョロ松は目を見開いた。来てくれたのは有難いが何故お前らがそこにいる?!というかその殺気は何ッ?!!

こうして死にかけたチョロ松は駆け付けた3人により間一髪、その命を救われたわけである。
一連の話を聞いた3人は驚きやら恥ずかしいやら。まぁ約2名元々死んではいるものの、誰も怪我がなくてよかったとでも思っておくが得策だろう。

「てかお前十四松だっけ?何があったらそうなんの?」

3人が微妙な顔で現状を受け止めようとする中、おそ松が至極真っ当な質問を十四松に投げかける。彼の中で十四松といえば、昔の泣き虫で内気な性格のやつだった。それが先程「イョイショーッ!」なんて聞いた事もない大きな声でチョロ松を軽々と引き上げたものだから驚いているのだろう。
その辺りはなんというか、他3人にしても謎であり触れたくないようで、あぁうん・・・という歯切れの悪い言葉が返ってきた。

「マジで何があった?」

「アハハー」

「怖ッ!!!」

「そんなことより体探さなきゃいけないんじゃないの」

「これそんなことか?!」

「お兄ちゃん一松の変わり様も気になるんだけど」

「ボクらのことは家に帰ってから話すから!!
今は2人のことをここから出すのが優先でしょ?」

10年の歳月の恐ろしいこと恐ろしいこと。弟達(と言っても同い年だが)の変わり様に驚くおそ松とカラ松。しかし今はそんなことを気にしている暇はない。現在時刻は3時を過ぎたところ、夜中になると幽霊らしくも悪霊達が活発になるらしく、危険との事で夜までには見つけてしまおうと彼らは感動の再開も程ほどにその場から動き出した。
通路の先にある扉を開けると細い階段が下に伸びていた。2人の記憶を頼りに下へと降りた一行は1階に辿り着き、右側の空間の先に鉄の扉があるのを見つけた。多分その扉を潜ったとのことで、チョロ松がそのドアノブを捻り外側へと押す。
するとそこは、

「ここ・・・・」

「周りを囲んでる林の中?」

「裏口ってこと?」

チョロ松が見た夢と現場がとうとう繋がった。
人が通らなくなった今、草が生い茂っているものの、そこには道らしきものがあるのがわかる。
そして雑草だらけの景色を見ていたカラ松が、腕を組んでいる大勢からハッとして目を見開いた。

「ここだ!」

「何が?」

「ここで捕まったんだ!!
一旦この建物で犯人をまいたんだが
ここが倉庫への通り道だったようで、殺された女の子を運んでいる犯人と鉢合わせてしまったんだ」

「ぁあっ!!そういやそうだった!!・・・け?」

「おそ松よりカラ松の方が頼りになるね」

「えーっ!俺だって頑張ってるよ?!」

「とにかく進もう
この先にその倉庫が残ってるかもしれない」

その倉庫に彼らが”ある”かもしれない・・・いや、付近に彼らが埋まっているかもしれない。どうにしたって酷い話だが、この奇跡、無駄にするわけにはいかないのだ。

「カラ松達以外の子もたくさん殺されてるんだよね・・・?」

「あぁ、そうだがそれがどうかしたか?」

「それだけここに死体があると思うとちょっと寒気してきた」

「目の前にいるのに?」

「2人はなんか、別じゃない?」

「トド松幽霊苦手だったっけ
十四松が苦手だったのは覚えてるけど」

「大人になると変わるもんなの!!」

「ぼくユーレイ大丈ブイサイーン!」

「おれも平気」

「うん今のお前なら平気そう」

眼力で幽霊くらい殺せそうな一松におそ松は苦笑いをしながら言う。状況があまりにも異様過ぎて少々麻痺してきているが、2人は列記とした幽霊だ。しかし体が少し透けている以外変わったところもない彼らに4人は昔と同じように接した。
容姿や性格が変われど6つ子という事実は変わらない。

「あ、あった!!」

前方に見えた小さな建物に6人は雑草を掻き分け走り寄る。木で出来た掘っ立て小屋のようなそれは正に倉庫くらいにしか使えないような場所だった。若干崩れてはいるものの、建物としての形はしっかり残している。おそ松とカラ松はこの建物で間違いないと頷いた。
劣化した木の扉は蝶番が外れて鍵の意味もなく外側に倒れ、容易に中に入れるようになっていた。中に”ある”かもしれない、と6人はドキドキしながらそろりと扉の倒れた空間へと足を踏み入れる。薄暗い中を懐中電灯で照らして中を見渡した。

「ないな」

「はぁー、なんかどきどきする」

「心臓にわりー・・・・」

「そりゃ探してるものが探してるものだからね」

「流石にもう骨になってるだろ」

「発言が生々しいでんなぁ~」

「容赦はしまへんでぇ、フヒヒ」

粗方探しはしてみたものの、目ぼしい発見と言えば微かな血痕と大きめの石ころ。現場はここで間違いないようだがここから一体何処へ向かえばいいのか。
倉庫から出てきた一行は周りを探索しだした。10年以上も前の痕跡が残っているとは思えない荒れ様だが、見つかれば御の字だ。
ガサガサと草の中へ分け入り何かないかと探していると、おそ松がある一転を見詰めて足を止める。それに気付いたチョロ松が何をしているのかと問うと、おそ松は遊園地の方へと指を指した。

「あっちかも」

「あっちに逃げたってこと?」

「多分・・・チョロ松が言ってた夢ってここ走ってた時じゃねぇかな」

縄を切った2人は倉庫を飛び出した。しかしそこを運悪く、死体処理の道具を持って帰ってきた犯人に見つかり後ろを追われた。
逃げている時、いくら大人に助けを求めても相手にしてもらえず、家族を見つけ出すこともできなかった彼らは、せめて人混みに入れば命だけでも助かるだろうと、夜闇に光る遊園地の明かりへと出せる全速力で走った。
ゆっくりと進んでいくおそ松に続きチョロ松がその後ろを着いていき、気付いた他4人もその後を追う。
少し上を見上げれば大きな錆びた看板が遠くの方に見えた。

「あの看板見覚えがあるぞ」

「思い出したの?」

「少しだけどな」

あの時2人で走った道を今、6人で歩く。
暫く歩いていたが、おそ松はある場所でピタリと足を止めると兄弟達を振り返った。

「ここ」

「チョロ松兄さん」

「うん・・・夢と同じ、だと思う」

なんの変哲もない獣道。あと数十メートルという所に見える遊園地の柵。トド松の問いにチョロ松は頷く。
そこはチョロ松が見た夢の最後、2人が犯人に殺された場所だった。
多分そうだろう、というだけで確証はないが、なんとなく微妙な気分になる。
さて、現場はわかったがここからが問題だ。殺された後、2人の体は何処に行ったのか。
まさかここに打ち捨てたなんてことはないだろう、というかそうでないと困る。
現実問題、子供の体というのは小さく土に還りやすい。当時小学生だった彼らは然程体格がよかったわけでもなく、極平均的な体つきをしていた。そもそも埋まっていたとして骨すら残っているかも怪しいくらいだ。

「ここからどうする?」

「完全に途切れたな・・・・」

死んでしまったからには2人の記憶を頼るのもここまでだ。周囲を見ても何か目に留まるものはない。
上を見上げれば、夕日が空を赤く染めていた。

「お前らもう帰れよ」

空を見上げたおそ松が笑って言った。どうせ一日二日で見つかるなんて思ってない。また明日にでも探そうと。
しかし4人は首を横に振る。

「ここまで来たんだから見つけようよ!!みんなでうちに帰りまっせ!!」

「そうだよ、ここまで来るもの結構手間だし」

「しかしそろそろ夜に・・・っ!!!」

ビリッと感じた殺気にカラ松はバッと後ろを振り返る。おそ松もそれに気付いたのか、4人を庇う様にしつつも周囲へと視線を巡らせた。ゆらりと揺れる黒い霧のようなそれは、4人を怨めし気な目で睨みつける。

おとなだ あいつとおなじだ

 ぼくたちをころしたやつとおなじ

   しんじゃえ

  ひとごろし  にくい

 コロス ゆるさない

「オレの兄弟に手を出したらただじゃおかないぞ・・・!!」

「あいつとこいつらを一緒にすんじゃねぇ!!
それ以上近付いたらあとがひどいぞ?!」

怨念のこもった声は2人の怒声に四散していったが、4人はこれに互いに手を握って固まった。
今のが殺された子供たちの悪霊というやつだろうか。こんなところが心霊スポットになってるなど不謹慎もいいところだ。

周囲の気配が消えた頃、おそ松とカラ松は4人の安全を確認するともう一度帰るようにと伝えた。大人一人を実際に葬っている連中だ、例え子供であっても人ならざるものであれば話は違う。
しかし4人は尚も首を縦に振ろうとはしなかった。

「俺たちだって毎回追い払えるわけじゃねぇし!」

「お前らを置いて帰れるわけねぇだろ?!」

「明日また来てくれればいい!!このままここにいたら怪我だけじゃすまないかもしれない!!」

「明日来ておそ松とカラ松がいるって保証は?消えないって絶対言えんのかよっ?!」

「ぼく絶対帰らないよ!!2人共連れて帰るまで帰らない!!」

「わがままはよせっ!!」

「我が儘なら何度も我慢してきたよ!4人だけなんてもうたくさん!!」

もし今日兄弟に会えたことで成仏してしまったら?消えて二度と会えなくなってしまって、2人の体も見つけられずに一生を過ごすのか?そんなの耐えられるわけがない。元々4人は2人の体を見つけるまで帰るつもりなどなかった。
絶対に見つけて6人で家に帰る。せめて2人の何かを持って帰りたかった。
帰れ、帰らない、と6人の口論は続き、その間にも日は暮れていく。
頼むからいい加減帰ってくれとそろそろ2人が泣きつきそうになり始めた頃、十四松がふと、遠くの方に木のない空間を見つけた。遠くであまりよくは見えないが、これだけ雑草が生い茂っているのにその場所だけが不自然に空いている。

「ね、ねぇ!!あっち!!
っぽいところあるよ!!行ってみようよ!!」

「あっち?!どっちだ十四松!!」

「こっち!!」

「あっ、おい!お前ら!!」

「出口はそっちじゃないぞ!!」

遊園地の出口とは反対の方向へ走る4人を追っておそ松とカラ松は駆ける。腕を掴んで4人を止められないのがもどかしい。
走った6人が辿り着いたのは不自然に何もない地面が広がる場所だった。
木も無ければ雑草も生えていない。その場所だけ異様な空気が流れていた。そしてチョロ松が着いてきたおそ松とカラ松を見て気付いた。

「お前ら、ここまで来れるじゃん!!」

「は?それがなんだよ?!
それより早く帰」

「気付いてないの?!ここ遊園地の敷地の外だよ?!」

「えっ?!・・・あっ!!いつの間に?!!」

「はぁ?!じゃあ俺たち出れんの?!」

「バッカ!ここにお前らの体があるってことだよ!!」

本体である体に引かれてこの遊園地の敷地内から出られないということは、つまり体がある場所には近付けるということ。
ここは遊園地から200m以上離れた敷地外・・・つまり、この空間こそが―――――彼らの体が眠る場所だ。
ついに辿り着いた場所に早速チョロ松が十四松を連れて先程の小屋へと走った。確かあの倉庫にはスコップがあった筈だ。恐らく犯人が使っていたものだろう。
マジかよ・・・とおそ松とカラ松は場の急展開に目を丸めた。本当に見つけやがった。自分達があれだけ探して見つからなかったものをたった1日で。
ボーッと事の次第をカラ松と眺めていたおそ松は、視界の端に入ったとある物を見ると、唐突に「あ」と小さな声を出した。どうしたのとトド松が聞くも、返事を返さないまま彼はそのとある物を視界に写したまま後ろへ下がり、そこでしゃがみ込む。この奇行にカラ松もどうかしたのかと問うたが返事はない。

「おい、何をしてるんだ」

「・・・・」

「おそ松?何してんの?」

尚も黙っていたおそ松だったが、やっと納得したのか、しゃがんだ状態でやっと言葉を返す。

「ここだ、この下
あそこに城の上の旗が見えたんだよ」

「旗?」

「え、でも2人が死んだのって」

「俺生きてたんだよ
ってももう全然わけわかんなかったけど」

彼は最期、薄れた意識を上にかぶさる重い感覚に少しだけ覚醒させた。視界に移ったのは黒く大きな影と、その後ろに見えるきらびやかなイルミネーション。
たったそれだけの記憶だったが、そのイルミネーションの明かりの陰に、城の屋根にある旗がはためいていたのが印象に残っていた。死の間際だというのにそういうどうでもいいところばかり頭に残っている。しかし今回ばかりはそれが役に立った。
丁度戻って来たチョロ松と十四松にこのことを伝えると、彼らはおそ松が示した場所をスコップで掘り始めた。
おそ松とカラ松はいよいよ自分の体を見ることになるのかと、ごくりとありもしない生唾を飲み込む。正直怖い、自分の死体を見て怖くないわけがない。所詮はチョロ松達の姿を真似ただけ、中身は未だに小学生のままだ。だが怖いのはチョロ松達も同じである。いざ目にして横転しないだけの勇気を持ち合わせているか否かと言えば答えはNO。

それぞれが覚悟を決めようとする中、穴は4人の手によってどんどんと深さを増していく。

そして―――――――、

「ない・・・・」

カランッとチョロ松の手からスコップが落ちる。一松が膝をつき、トド松はどうしてという顔で何も出てこない穴を見詰めた。十四松は諦めずに掘り続けているがやはり何も出てくる気配がない。

「そんな・・・」

「もういい、いいんだ
皆に会えただけでも嬉しかった」

「そんなこと言わないでよ!!
場所が、きっと場所が違うんだよ!
旗が見える場所を探せば!!」

「や、場所はここであってる」

「ならどうして!」

「骨って、土に分解するらしい・・・・」

土で汚れた手でスマホを持つチョロ松が力なく答えた。
あまりにもあんまりは話だ。ここまできて何もなかったなんて・・・。
掘り進めていた十四松もついには手を止めて手の内のスコップを地面に置く。しょぼくれた顔はせめて欠片だけでも何かを手に入れたかったと、掘った穴を見つめた。

「・・・んな顔すんなって!!
みんな来てくれただけでも・・・俺、はッ・・・」

気丈に振る舞うおそ松だったが、目に溜まる涙が頬を零れ落ちる。それにつられてカラ松までもがグズグズと泣き出した。

「っあ〝ー・・・違う・・・全然平気なのに・・・っ・・・大丈夫、全然」

「どこが大丈夫なんだよっ・・・」

「ごめん・・・グズッ・・・こんな、探してくれたのに・・・」

「謝んないでよ
ボク達がもっと早くカラ松達に気付いてればよかったんだから」

兄2人が消えた遊園地、そう言って嫌煙していたのが裏目に出た。もう少し、あと数年早くここに来ていれば結果は違ったかもしれない。
だが今悔やんでももう遅い。土に解けた体は帰ってはこない。
5人が悲壮にくれる中、一松は自分達が掘った穴の土の山を難しい顔をして眺めていた。暫しそうしていたのだが、意を決したのか一松は口を開く。

「墓を統合するときに土をまくってやつがあるんだけど
やってみる価値あると思う?」

この一松の言葉に5人は一斉に顔を上げた。
日本には新しい墓を古い墓と合わせる際、古い墓が土葬である場合はそこの土を新しい墓にまくという手法がある。
かなりアバウトな手法ではあるが、これは使えないだろうか?
策を絶たれた今、やらないという選択肢は彼らにはなかった。

「一松お前・・・すごいよ!!やってみよう!!」

「そんなで本当に出られるのか・・・?」

「えー・・・大丈夫?」

「やってみようよ!!やらない損よりやる損だって!」

「レッツトラーッイ!ホームラン目指すっぺー!!」

まだ希望はある。おそ松とカラ松はそんな方法でここから出られるのかと顔を歪めたが、これ以外にできることもない上、これ以上暗くなっては彼らが帰れなくなると4人のしたいようにやらせることにした。
一応と必要そうなものを持ってきた持ち物の中にあったビニール袋に土を適当に、本当に適当にひと掬い入れると彼らは入場ゲートまで走った。また悪霊に絡まれては事であるし、ここに街灯というものはない。夜になったら正真正銘真っ暗闇だ。懐中電灯があったとしても歩くのは危険だろう。
幸い悪霊と出くわす事もなく入場ゲートに辿り着いた6人はそこで足を止めた。
ゲートを前にすると横に並び、互いに目を合わせて頷くとゆっくり、その歩を進めていった。

「・・・・・」

「・・・・」

あと5歩。

「・・・・・・」

「・・・」

あと2歩。

「・・・・・っ・・・」

あと1歩。

「・・・・っ!!ッ!!!」

外まで0歩、おそ松とカラ松の足は遊園地の外へと一歩を踏み出すと、そのまま何事もなく体を完全に外界へと出した。
2人は2、3秒フリーズしていたが、自分達が遊園地の外へ出ていると知るや否や、大喜びで抱き合った。

「出たッ!!出れた!!」

「ああ出れたぞ!!これで家にッ・・・!!」

あの家に帰れる。嬉しさから涙がこみ上げ止まらない。
これにたまらず4人もおそ松とカラ松に抱きつこうとしたのだが、案の定、透けてドサリッと4人倒れてしまった。
暫し驚いて真顔になっていた一行だったが、その数秒後、彼らは同時に笑い出した。

狂気の死体捜索から数日後、4つ子の6つ子はなんの変わりもなく平和な日常を過ごしていた。

「チョロ松のエロ本みーっけた」

「あ〝?!ちょ、やめろよ!!」

「だって暇なんだもーん」

「ただいまー、ってカラ松兄さんまた尾崎見てるの?」

「ああ、このカッコよさ・・・オレもこんな風になりたいなぁ」

「一般人が真似してもイタくなるだけだから」

「もう10回以上再生してんだけど・・・」

「おそ松にーさんやきう行こ!」

「んー見てるだけだけどいいの?」

「うん!だから一緒にいきまっせ!!」

あれから2人が成仏して消えると思っていた4人は、いつまでも消えないおそ松とカラ松にならばこの家で過ごせばいいと提案し、奇妙な生活を送っている。端から見れば彼らは見えないので変わりはない。しかし4人にとってはこれ以上無い変化だった。
松代や松造にもおそ松とカラ松は見えていないらしく、頭の心配をされたがまぁ致し方ないだろう。

悪夢は終わった。おそ松とカラ松はもうどう足掻いても彼らと共に成長することも、同じように過ごすことも出来ない。失われた命は決して戻ることはない。
しかしそうだとしても、6人一緒にいられるだけで十分だ。
ぽっかりと空いた2つの穴は完全ではないにしろ、元の6人へとその穴を埋めた。

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