松野トド松、山での話

お題:山/公卿トド松小説

これは、僕がまだ登山クラブに入部する前の話。
その日、家族で山に栗拾いに来ていた。その山のふもとには古い祠があった。
栗拾いに夢中になりすぎた僕は、みんなとはぐれてしまい、道に迷ってしまったのだ。

「あー、もう!携帯も圏外だし!!!」

誰も見当たらない山の中で、帰り道も分からず、携帯も圏外。これ以上下手に動くと、さらに迷いそうだと判断した僕は、傍にあった切り株に、腰をかけた。

フゥっと一息をついて落ち着くと、沢山のカラスの鳴き声が耳に入ってきた。

カァ カァ カァ

その声を聞いていると、だんだん不安になってくる。

僕は帰れるんだろうか
帰れなかったらどうする???

「ぐすっ………」

怖い。帰りたい……
そうは思っても、ここで泣いては、帰れなくなってしまう。そんなのは嫌だ…
そう思っていた時。

「おい、何をしてるんだ、ここで。

声が聞こえた。
振り返ると、そこにはカラ松兄さんが立っていた。

「カラ松兄さん?」

兄さんの姿を見た途端、安心して、我慢していたものが一気に溢れでた。

「うわあああん!!!カラ松兄さん--!」

いきなり抱き着かれた兄さんは困惑した感じだったが、すぐに頭を撫でてくれた。
それから少し落ち着いて、今までの経緯を話した。

兄さんは少し考えた後、僕の手を引いて、歩きだした。

「どこいくの?」
「…お前が行きたい場所に連れてってやる。絶対に俺から離れるな。」

僕は頷いて、兄さんの手を繋ぎながら、兄さんの後ろについて行った。

途中、あの不安になるようなカラスの声にびっくりしたが、その度に兄さんが手を強く握ってくれた。

だんだん、木々が少なくなって、視界が広がっていく。
「着いたぞ」

兄さんがそう言って僕の手を離した。
見ると、みんながいる。
「ホントだ!!ありがとカラ松兄さ……」

振り返ると、さっきまでそこにいたはずのカラ松兄さんは、どこにもいなかった。

「にいさん……?」

困惑していると、

「おーい!トド松ー」

おそ松兄さんの声がした。
僕は、カラ松兄さんはきっと先に行ったのだろうと思い直し、みんなのところに急いだ

家に帰ってすぐ、カラ松兄さんにお礼を言った。

「カラ松兄さん、さっきはありがと」

僕がそう言うと、兄さんはキョトンとした顔で「何がだ?」
と言った。

「え、だって今日、森の中で僕のこと助けてくれたでしょ?」

そう言っても兄さんは覚えがないらしかった。
そもそもカラ松兄さんはずっと、みんなといたらしい。

じゃあ、あれは誰だったのだろう。
疑問に思ったが、夕飯の栗ご飯につられ、忘れてしまった。

それから数週間後、登山クラブに入部して、僕はまた、あの山に登ることになった。そこで仲良くなったお爺さんに、こんな話を聞いた。

「この山にはな、昔から烏天狗様がいると言われとる。その天狗様はお人よしで、山で迷った村人を助けて下さっていたらしい。山のふもとに祠があったじゃろ?あれは烏天狗様を奉ってる祠なんじゃよ。」

話を聞きながら、あの時、異様に烏が鳴いていたな、とか思っていた。
もしかしたら、もしかしたら……

僕は下山したあと、あの時と変わっていない祠に、少量のお酒と紙コップ一杯の麦茶をお供えした。

カァ

どこかで烏が鳴いた。

↑ ページトップへ