お寺

お題:お寺/船木一松十四松小説

「意外だと思われるんだけど、ぼく実はホラーって苦手なんだよね。存在がホラー?言うよね〜。なんていうのかな〜?霊感?霊感であってる?そうそう、霊感ってのが、あるっぽいんだよね。カラ松兄さんもあるらしくってね、お盆あたりとかバリバリ見えるんだって!すっげーよね!ん?カラ松兄さん?あ、誰って?あははごめんね!カラ松兄さんはぼくの3つ上の兄さんだよ!え?ぼく?ん〜ぼくもねぇ、実は見えるんだぁ。お盆?いや、お盆じゃなくても見えるんだぁ。あはは、ばれた?そう、割とバリバリ。すごい?すごいのかなぁ?あんまりすごくないと思うよ。だってぼくね、すでに死刑宣告されてるようなもんなんですわ〜。気になる?へっへっへ〜お主も悪よのぉ〜〜あのね〜実はね、」
 

「あ、いた。十四松、探したよ。何やってんの?帰るよ」
 

「あ!一松兄さんだ!ごめんねー!怖い話また今度にしよ!」

女の子と怖い話をしてたら一つ上の兄さんが帰ってきた。今日は一松兄さんとおつかいにスーパーに来てたんだよね。すぐ済むからちょっと待って。って言われてぼくは、スーパーの前で待ってた。すると、スーパーの脇で女の子がつまらなそうに立っていたからついつい声をかけてしまった。女の子は笑顔でぼくとお話してくれて、なんでだっけ?あれ、どうして怖い話になったのか忘れちゃった。

「なに…してたの…」
「女の子とおしゃべり!お母さん待ってるんだって!」
「………」
「ぼくも兄さん待ってるから一緒だね〜て話してたら、あ、そうそう。お兄ちゃん怖いものないの?って聞かれたから、ぼくホラー苦手なんだよ〜て話して……あれ?兄さん?どしたの?」
兄がいない間にあった出来事を一つ一つ思い出しながら話すけど、どうやら兄の顔色はあまりよくない。あれ。まさか…。
「あのさ…十四松……言いにくいんだけど」
「え…?もしかして…?」
 

「さっき、お前の前には誰もいなかったよ…」
 

でたぁ〜。ね?だから、ぼくはホラーが苦手なの。
 

***
 

昔話!
なんというか、今思えばあの時から変な感じになったなぁって思うからその時の話をするね。
結構子供の頃、んーと、小学校くらいだったかなぁ。確かそんくらい!その頃のぼくって結構泣き虫だったんだよね。何で泣いてたのかはいまいちわかんないや。
あ、そんでね、家族みんなで遠い親戚の法事でめちゃくちゃ田舎に行ったことがあるの。距離が距離だったから泊まりで。父さんと母さんは法事の手伝いで忙しいから、2泊したんだよね。正直、大人が忙しい時の子供の6人って結構邪魔でしょ?だからぼくらはみんなで近場の探検に行くことにしたんだ。
田舎って言っても本当に田舎で、車がないと移動も不便って感じのところ。徒歩5分で森の中にも入れる!そんな感じ。もちろんコンビニも自動販売機もないし、田んぼとかばっかり。暫くは6人で田んぼとか池とかでカエル釣ったりして遊んでたんだ。特におそ松兄さんとチョロ松兄さんが張り合っちゃって面白かったな。
そんな遊んでるうちに、トド松が「あっちになんか看板ない?」って、言い出したんだ。確かにトド松が指差す方には看板があって…でも錆びちゃってて全然読めなかった。看板のある場所から森の中は、昔使ってたのかなっていう感じの道があったんだ。舗装はされてた、って言った方が良いかな。もう草が伸び切っちゃってて通るのは少し大変そうだった。その道はずーーっと先までのびてて、今いるところからは何があるかなんてわからなかった。木々が多くて、薄暗い。この時点で、ぼくは何だか気味が悪いなぁって思いはじめた。

「この先何あんだろ!行ってみようぜ〜」
「えっ行くの?」
「探検だし行こうよ」
「そうそう、なんかすごいのあるかも!」
「何だよ。十四松ビビってんのか?」
「ビ、ビビってないよぅ!」
「じゃあ行こうぜ」

他の5人は探検するのに興味津々で、例えぼくが行きたくないって言ってみても、ぼくを置いて行っちゃう感じだった。気味が悪いし行きたくない。でも、1人で待ってるのも嫌。
「十四松怖いの?」
「一松までぼくの事からかうの?」
「からかってないよ。でも、怖いなら手でも繋いで行こう」
「……うん」
当時の、いや、当時から一松兄さんはぼくの事をよく気にかけてくれてた。この時も、怖がっていたぼくの手を引いて他の4人について行ったんだ。ガサガサと草木をかき分けて進んでいく。たまに固い草で手とか足とか切ってしまいそうで嫌だった。でも、ひとりぼっちで入口で待ってるのはもっと嫌だった。そのまま、兄弟について行くと先頭を歩いていたおそ松兄さんが「すげぇぞ!」と大声をあげた。何かと思ってわらわらと他の兄弟たちが走り出す。一松兄さんも、一度ぼくの方を振り向いて「走るよ」と一言。ぼくが頷くと少しずつスピードを上げてくれた。
薄暗い小道を抜けると、急に景色がパァっと明るくなった。

開けたその先には、古い…お寺があった。

「お寺だ!」
「すっごーい。なんか隠されてる感じ」
「結構立派だな」
「誰かいるの?」
「流石にもう使ってないんじゃないの?」

散り散りにそんな事を言いながら兄弟達は寺の周りを散策し始めた。ぼくはどうしてかわからないけど怖くて、ずっと一松兄さんの手を離さなかった。ぼくの様子を見てちょっと苦笑いしていたけど、「何ともないよ」と言いつつ手は離さないでいてくれた。
お寺は結構古いもので、人がいなくなってどれくらい経ったんだろうって思う感じだった。真ん中に大きな入口?の引き戸。屋根は瓦だったけど、所々割れたのか崩れたのか無くなっている。小道の抜けたこの少し広めの空間は、本当にこのお寺しか存在してなくて、それでもなんだか不気味だった。普通、もっと色々なものがあったりするでしょ?
そのうち、「中入ってみる?」と兄弟が言い始め、流石に入るのは止めようと反対する意見もあったけど、小さい子供の冒険心というのは中々に強いものである。結局は多数決で中に入ることになってしまった。

「お邪魔しまーっす!」

ガララ…と音を立てておそ松兄さんがお寺の本堂の引き戸を開いた。重々しい音に、ぼくは嫌な気持ちが強くなってた。

「中も広いな」
「ここ本堂かなぁ?仏像ないけど」
「奥にも何かあるのかな」

大人数でぞろぞろと本堂に入っている。ここの本堂は広く、天井も高かった。おそらく昔はあったであろう仏間に、古く汚れてしまった座布団がそのままずらりと並んでいた。
本堂に入るまで、来るのに反対してたチョロ松兄さんも、中に入ったら好奇心が勝ったようでワクワクしながらあちこち見回ってたのを覚えてる。

「……十四松…?どうかした?」
「…うぅ…なんか、気持ち悪い」

顔色が悪かったのか、手を繋いでいた一松兄さんがぼくの異変に気付いて声をかけてくれた。お寺に入ってから、徐々に胸が苦しくなった。ん〜なんていうか、ジェットコースターに乗った後みたい?な気持ち悪さっていうのかな?内臓が移動したような気持ち悪さが続いてた。
「大丈夫?帰る?」
「…帰りたい」
帰りたい、と言う物の、この時の具合は悪化の一途で、どうしても立って歩くなんてこと出来なくなってた。ぼくはふらふらとその場にしゃがみ込んでしまった。
「わ、ちょっと大丈夫?おぶって行くにも辛そうだね。少し休んでからにしよう」
「……うん」

「あ、おーい、一松、十四松〜奥行ってみようぜ〜」

そんな事を話していると、ぼくと一松兄さん以外の4人は、本堂の裏側にある扉を見つけたらしく、そこに行ってみようと話をしてきた。
「みんな、十四松ちょっと具合悪いみたいだから、ぼくついてるよ。4人で遊んでて」
「え、十四松具合悪ぃの?」
「帰るか?」
「でも、そこだけ、そこだけ気になるって〜」
「わり、すぐ戻ってくるから待っててな」
冒険に夢中の兄弟達を邪魔するのも気が引けて、早めに帰って来てねとだけ言っておいた。すぐ戻るといった4人は、奥の扉に進んで後ろ姿も見えなくなった。
グラグラとする頭痛もしてきて、息苦しい。荒い息をしながらぐったりしてしまう。一松兄さんはぼくを連れて壁側に移動して、壁に体重を預けるように座らせてくれた。その隣に自分も座り、肩に頭を乗せるように言ってくる。
「……いちまつ、ごめんね」
「いいよ。十四松すごく辛そうだし放っておく方が心配。ここ、外から見た感じそんなに広くないし、みんな5分もすれば戻ってくるでしょ。戻ってきたらすぐ帰ろう」
「うん。ありがとう」

一松兄さんは、僕にとって心のよりどころだった。いつも好き勝手する他の兄弟達とは違って優しいし、なんというか、一番「お兄ちゃん」って感じで、一松兄さんの隣は安心できる場所だった。
4人を待っている間も、具合は悪くなる一方で、「風邪引いたのかな?熱ある?」とぼくの不調が何の原因かわからず兄さんも慌てるばかりだった。
そこで、10分…いや、正確に時間は見てなかったんだけど、20分くらい経っても、他の4人は戻ってこなかった。ぼくは冷や汗が止まらなくなって、寒くて、気持ち悪くて、兄さんの手をぎゅっと握りしめながら荒い息を立ててたらしい。らしいってのは、ぼくはいまいち覚えてなくて。一松兄さんがそう言ってたんだよね。
目に見えてぼくがやばい状態だと思った兄さんは、「4人呼んでくる」と腰を上げようとした。

「…やだ……。1人にしないで」
「すぐ戻るよ。このままじゃお前がやばいでしょ。すぐ帰りたいけど、何も言わずにあの4人置いてくわけにもいかないし」
「ここでひとりこわい…」
「そこの扉開けてくから怖くないでしょ。ほら、お前熱も出て来ただろ」
そういっておでこに手を当てられる。その手はちょっとだけ冷たくて気持ちよかった。
「怖くなったら扉に向かって一松って呼びな。すぐ戻るから」
「……わかった」
ここで駄々をこねても一松兄さんを困らせるだけだとわかり、ぼくは大人しく本堂で待ってることにした。「いい子にしてて」と最後に言って、一松兄さんもいなくなる。
 

こわい。ひとりだ。寂しい。気持ち悪い。寒い。
 

一松兄さんがいなくなっただけで、すごく寂しくて怖くて、ぼくは目に涙が浮かんできた。この頃、本当に泣き虫だったんだよねぇ。「いちまつはやくかえってきて」心の中でそう思いながら、体育座りをして膝を抱え……たかったんだけど、急に体が重たくなって、その場に座っていられなくなった。何が起きてるのか全然わからなかった。でも、体の上に重りが乗せられたみたいに重くてぼくはそのまま横に倒れ込んでしまった。
なにこれ、なにこれ…!!
倒れてからも、誰かに上から押さえつけられてるみたいで指一本も動かせない。完全にパニックになったぼくは、唯一動かせた目で、あちこちキョロキョロと見回す。背中が重いのは何かと思い肩越しに目線を動かし、そこで、見てしまったのだ。
 

ぼくの上に、鬼のお面をかぶったナニかが、いた。
 

「…っ!?……ッ、!!!」
叫ぼうとしたが、声が一切でない。「一松、助けて!」そう言いたかったのに、ぼくの声はしゃべり方を忘れてしまったように言葉を発することが出来なかった。恐怖で体が凍り付く。こわい、こわい…!
「    」
何かを言っているけど、聞き取れない。肩越しにしか見えないため、どういったやつなのかもわからなかった。ただ、本当に怖くてぼくは自然に目に涙がたまった。鬼のお面をかぶったナニかは、着物を着ているみたいで、ぼくを押さえつけながら、キラリと光るものが目に入った。目を凝らせば、わかる。刃物だ。いや、刃物と言うのか、それは斧に近い。

殺される…!

瞬時にそう思った。この何かわからない人物は、ぼくを殺そうとしてるんだ。直感的だけどそう感じたんだ。動かない手足を動かそうともがくけど、全然体は言うことを聞いてくれない。
 

いやだ、こわい、たすけて、しにたくない!
 

その瞬間、パァっと、明るくなった。パァっと言う表現じゃ当てはまらないかもしれない。例えるなら、いきなり目の前でカメラのフラッシュをたかれた感じ!あれくらい強い光が本堂の真ん中の方で起きた。
ぼくは、本堂の右側の壁に寄りかかってそこから左向きに倒れていたから、目の前で突然現れた光に目が眩んで、思わず目を閉じてしまった。光が治まると、背中に感じていた重みはなくなっていた。体も動かしにくいけど、少しだけ動く。まぁ、体を起こしたりとかは出来なかったけど。
「…?」
目の前に、白い足があった。若干光を帯びていて、白い着物の裾も見える。首が全然動かせなかったから、その人物がどうゆう顔をしているのかは、わからなかった。でも、怖い感じは全然しなかったんだ。

「……?きみ…だれぇ?」
「…わたしのことみえるんだね」
「あ、」

先ほど全然声が出なかったのに、今度は声がでた。それに驚いて声をもらしたけど、返してくれた本人は少し笑ったようだった。女の人、なのかな?でも男の人ともとれるような中性的な声だった。大人の声ではあったんだけど。
「大丈夫だよ。君はわたしと相性が良すぎて巻き込んでしまったみたいだね。ごめんね」
「え…?」
そういうと、おでこに手を当てられる。あったかい。
「じっと、目をつむって…そう、いい子」
「………」
ほわほわとした…お日様みたいなあったかさがおでこから伝わってきて、少しずつ意識が薄れていく。眠い…。
「わたしはもうあまり力がなくてね。せめてもの償いだ…少しの間だけはわたしが守ろう」
「…?」
「その間に離れなさい。もう絶対に、ここには来ないように。いいね」
「……うん」
「いい子だね。さぁ、眠って…そうだね。次に目が覚めたら君の兄弟達がそばにいるから安心するんだよ」
「…わか…ったぁ」
「あぁ、おやすみ、『    』」
 

最後に、何かを言われたけどそれは聞き取れなかった。
あの時……なんて言われたのかは、今でも気になるけどね。

 
 

「十四松!」

目が覚めると、一松兄さんが一番に視界に入って来た。
「………ぁ、れ」
「十四松!よかった!」
ぎゅっと抱きしめられて、今どうゆう状況か判断できなくて混乱する。見渡せば、ぼくの周りには他の兄弟達も集まっていた。
「…あれ?みんな、冒険おわり?」
「何を呑気なこと言ってるんだ十四松。お前、自分がどうなったかわかってるのか?」
「え?どうなったって…」
「俺すげぇびっくりしたぞ。一松が十四松の具合悪そうだから連れて帰るって言いに来て、みんなで慌ててここ戻ってきたらお前倒れてるんだもん」
「……そうだったの」
「そうそう。意識もなくって、ボクらが何回呼びかけても全然目を覚まさないし」
「十四松、具合は?」
ぼくの傍でぼくより死にそうな顔をしてた一松兄さんが体調を心配してくれる。
「…良くなってる」
あんなに苦しくて息もしにくかったし、体も重かったのに今は全然何ともない。なんでだろう?
「よかった。赤塚からこっちに移動するのに疲れたのかもね」
「あとは、法事の準備手伝わされて疲れたとか」
「十四松、人いっぱいいるの苦手じゃない?親戚いっぱいいて疲れたとかもある」
「あはは、全部疲れてる」
「とりあえず帰ろうか。そろそろ夕方だし」
 

そうして、ぼくは他の兄弟達と親戚の家に帰った。次の日はもう赤塚に戻る事になっていたし、その後も、この遠方の親戚の家には来ることはなくなった。
それからと言うもの、ぼくはその…霊感?というやつがバッチシ出来てしまったらしい。人と幽霊の差がわからず、普通に話しかけてお話しても、実はそれは死んでしまった人だった。というのがざらにある。怖いでしょ。
親戚の家の近くのあのお寺の事を、聞いてないのであの時ぼくを助けてくれた人が誰だったのかもわからないまま。なんとなくもやもやするけど
 

『もう絶対に、ここには来ないように。いいね』
 

この言葉だけは、よく覚えてる。
ぼくはもう二度と、あそこには行かないと心に決めた。

ね?だから、ホラーって苦手。だってぼくは、既に死刑宣告をされているようなものだから。

↑ ページトップへ