だってそこに在ったから

お題:オリジナル/さちこ。チョロ松一松十四松小説

「一松兄さん!チョロ松兄さん!何して遊ぶ??野球?かくれんぼ?」
「十四松、まずは荷物片付けてから!一松!猫の相手も片付けが終わってから!!」

腰に手を当ててそわそわ落ち着きのない十四松と、猫を両手で抱きかかえている一松に一喝する。

毎年恒例の家族旅行。海だったり山だったり、その年で場所は違うもののだいたい行く場所は決まっていた
今年は珍しく祖母の家で、真夜中に出発した僕たちはちょうどお昼時になろうかという時間に到着したのだ。

そんなに急く旅行でもない。時間はたっぷりあるのだからと散々寄り道をした結果だったけれど、祖母は笑いながら受け入れてくれた。

「終わったら遊ぶ?」
「……ねこ」

言うが早いかばたばたと片付け始める二人。それを見ていた末弟も小さいながら自分の荷物を持って二人についていく。それを見て微笑めば遠くから長男の声が聞こえてきて、あっちもこっちもどうしてこう賑やかなのだろうと苦笑してしまう。それが嫌いじゃないからどうしようもなくて、ぱたぱたと聞こえる足音にチョロ松はゆっくり腰を上げた。

片付けが終わってからお昼ご飯を食べてしっかり五時間。どこにそんな体力があったのかと疑うくらいに遊んだ。ありとあらゆることをしたような気がする。

ふらふらになりながら居間に転がると祖母がぽんぽんと頭を撫でてくれた。
もうすっかりお兄ちゃんだねぇ、って言ってくれるから。へへっと微笑めばドゥーンと十四松が飛び込んできて、次いで一松にしては勢いをつけて飛び込んでくる。

あらまぁと驚いた声を上げるものの、二人とも手を洗ってきなさい、もうすぐご飯だよと祖母に促されて大きなテーブルを並べれば、途端に賑やかになる部屋の中。
手を洗ってしっかりチョロ松の隣を陣取った二人もそわそわと並べられていく料理を見ていた。

いつもは出てこないような豪華な料理をしっかり堪能して、気づけばいつもより早い時間だと言うのにみんな眠たそうな表情をしていて、そうしてこういった旅行で必ず喧嘩になるのは寝る場所だった。
例えばトド松はおそ松とカラ松と一緒に寝たがるし、十四松は暑がりだからなるべく涼しい場所で寝たいと言う。一松はどこでもいいけど一人は嫌だと言うし、僕も僕でできれば涼しいところで寝たいのだ。

最終的にそれぞれが陣取った場所の間をぬうように両親が寝転がり、あれだけ煩かった声も数分立てば寝息に変わっていく。

「チョロ松兄さん、明日も一緒に遊ぼうね!」

小さな声に目を向ければ眠そうな十四松と目が合う。頷いておやすみを言えばすぐに寝息が聞こえてくる。
車の中であんなにも爆睡していたのに、祖母の家についてからはずっと遊び通しだった。それはチョロ松も同じで、明日も早起きだなぁなんて思いながら目を閉じた。

「……あぢぃ…」

少しの寝苦しさを覚えて起き上がる。隣を見れば同じ暑がりのはずの十四松がぴたりとこちらにくっついて寝ている。額に張り付いた前髪を梳いてやり、ほんの少し押しやってからため息を吐いた。

窓を開け放していて自分の家と比べればだいぶ涼しいはずなのに、どうしてこうも暑いのか。
虫の音も何にも聞こえない。じっとりとした空気がまとわりついて思わず舌打ちをする。
ちらりと十四松を見ればその足元に誰かが寝ていた。一松だろうか、まるで猫が香箱座りしているような姿勢だ。
じっと見るが身動きもせずに熟睡している。

一松すごい寝相良くない?てか辛くないの?

顔を俯せてのその姿勢に妙に感動を覚えてしばらく眺めていたけれど、まだ起きるにはだいぶ早い時間だ。
昼間の疲れから大きく欠伸をすると、チョロ松は布団からはみ出して畳の上に寝転がり再び目を閉じた。

しっかり熟睡できていたらしい。ぼんやり目を開ければすっかり部屋の中は明るくて、起き上がって隣を見れば珍しく寝たままの十四松がいた。その足元を見れば誰も居ない。おや?と首を傾げれば上二人の会話が耳に入った。

「ナニソレコワインデスケド」
「何が?」
「ん?いや昨日夜中に目が覚めてな、ちらっと隣見たら知らない女性が俯せで寝ていたんだ」
「え、母さんじゃないの?」
「母さんはあんなに髪の毛長くなかったしパーマもかけてないだろ?そもそも浴衣だって着てなかったし」
「いいよ、もういいカラ松!寒いから!」
「え?トド松はどこに居るの?」
「あいつ夜中に寂しくなって母さんの隣に行ったんだよ」

指さす方を見れば確かに母さんの隣で寝ているトド松がいる。
そうか。ぽんっと手を叩いて頷くとどうした?とカラ松が聞いてくるから、自分が昨日見たことを話すと面白いくらいにおそ松兄さんが震えあがる。

「一松すごいなぁって思ったんだけど」
「いや、一松あっちで寝てんじゃん!なんなのお前ら二人してさぁ、兄ちゃんキャパオーバーだよ?」
「そっか、あれ幽霊だったんだ」

そういえば、起きてぼんやりしている一松を見れば、着ているパジャマは薄い紫だ。昨日見た香箱座りの幽霊は白いTシャツを着ていた。
そっかぁと再びカラ松に目を向けて思わず目を見開く。あれ?と思う間もなくそれは消えていて、ただ心臓が煩いくらいに音を鳴らす。

なんとなく寒く感じて腕を擦ってしまう。いつもと違ってしっかりお盆を跨いでの旅行だったからだろうか。あまりにも煩いから羨ましくなってしまったのか。
そんなことを考えていると、ようやく起きたのか十四松がごろごろと近寄ってきて頬を摺り寄せてくる。

「おはよ、十四松」
「おはよぉチョロ松兄さん」

うへへと笑う十四松の頭を撫でてやれば一松も四つん這いで這い寄ってくる。一松にも同じように頭を撫でてやれば気持ちよさそうに目を細めた。
そんな僕たちを見て不思議そうに首を傾げたカラ松が口を開く。

「なぁ、チョロ松」
「なに?カラ松も撫でて欲しいの?」

呆れたような視線を投げればいや、と首を振る。なんだろう、どこか落ち着きがなさそうに視線を彷徨わせている。

「何?」

促してもどうしてかなかなか話そうとしてくれない。そうこうしているうちに美味しそうな匂いがしてくる。
われ先にと走って階段を下りていく弟たちに負けじと長男も走っていく。それをバカだなぁなんて眺めていると、ようやく話す気になったのか。カラ松が気持ち悪いくらいに真剣な眼差しを向けてきた。

「あのな、お前、誰と話してるんだ?」
「え?一松と十四松だよ」

バカなの?と睨みつければカラ松は困ったように眉を下げる。

「その、な。じゅうしまつって、誰だ?」
「は?そんなの決まって、っ…」

勢いよく怒鳴ろうとしてカラ松を見た瞬間、その次の言葉が喉に引っかかって出てこなくなった。

廊下の障子に小さな白い手があった。
片目だけを覗かせて十四松がジッとこちらを見ている。
その目がゆっくり細められていって、白い手が離れて人差し指が唇に触れた。
そのすぐ後ろに一松が立っていて、同じように人差し指を唇に当てている。

あぁ、やっぱり。羨ましくなってしまったんだろうか。
いったい、いつから、そこにいた?

「チョロ松?」
「うん」

カラ松に何でもないと首を振って、ほら、と手を差し出す。廊下に出れば昨日と同じように左手にひんやりとした手が触れる。見れば嬉しそうに十四松が笑っていて、一松も満足げに微笑んでいる。

「チョロ松兄さん、今日も一緒に遊ぼうね!」

嗤って十四松がぎゅうっと繋ぐ手に力を込めた。

***
 
補足
おそ松・カラ松(成人済み)
チョロ松(中学生くらい/作者役)
一松(小学生低学年)
トド松(年少さん)
十四松(年長さん)

数年前に体験した実体験とオリジナルです。

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