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お題:視聴覚室/くり。カラ松小説

次は俺の番だな。
始まる前に一つだけ断わっておくぞ。
この話は実際に俺が体験した話ではないんだ。
そうだな、友達の体験談を俺に当てはめて話している、とでも思ってくれ。
どうでもいい?あぁ、そうかもしれないが大切なことなんだ。怒らないでくれ一松。
なに、退屈はさせないさ。と、前置きもほどほどに話していこうか。
そうだな、せっかくの機会だ。よくある決まり文句から入らせてもらおう。
「その日俺、松野カラ松は母校へと足を運んでいた」

特別用事があったわけではない。
散歩をしているときに何気なく行こうと思っただけだ。
十四松も行きたかったのか?そうか、それならば次は皆で顔を出すのも悪くないかもしれないな。
学校へ着いて俺は直ぐに職員室へと向かった。勿論、お世話になった先生方に挨拶をするためにな。
トントントン、失礼します
軽く扉をノックし職員室へと入る。大人になった今でもどうも職員室は苦手だ。
コーヒーの匂いが広がるその独特な空間に俺は少し眉を顰め扉付近の先生に声をかけた。
「すみません、×××先生はいらっしゃいますか?」
その先生には見覚えがなく恐らく新人なのだろう。俺と大して歳が変わらぬよう見えた。
しかし一応教師ということもあり俺は敬語で話しかけた。
それが功をなしたのか、その先生は顔をゆっくりと笑顔に変えながら×××先生を呼んでくださったのだ。
思い出したかチョロ松。そう、お前が今よりずっと悪戯好きで何かしでかす度にお前の頭に拳骨を落としたあの先生だ。
当時よりも優しい顔つきになった×××先生はいまではなんと教頭をしてらした。
×××先生は俺を一目見るなり
「松野んとこのカラ松か!?」
と何度もチョロ松にコブを作った大きい手を広げ、俺の頭を撫でてくれたんだ。
長い間会うこともなく、昔とは変わったこの顔。なにより六子である中の俺を瞬時に呼んでくれた事が嬉しくてな。
そこが職員室ということも忘れ先生の名前を何度も繰り返しながら今の俺達、松野家、の話をした。

おそ松は昔と変わらずやんちゃだが、今でも長男としてやっていること。
一松が少し冷たいが、やはり根は優しく猫の友達が多くいること。
トド松はある意味兄弟一のしっかり者になったが、今でもお化けが怖いこと。
十四松の泣き虫がなくなり、笑顔で俺たちまでもを笑顔にしてくれること。
あの暴君だったチョロ松が真面目になろうとしていること。

忙しかっただろうに、×××先生は俺の話に相槌を打ちながら聞いてくれた。
その上俺が他の人に迷惑にならないように少しづつ歩き誘導し、廊下の隅にまで出てきてくれたのだ。
本当あの人には頭があがらない。
話して話して話して。もうこれ以上話すことはないというほどに話して。
満足しきった俺がようやく仕事時間を邪魔してしまった事に気が付き慌てて謝ろうとした時、
それを遮るかのように先生は俺に聞いてきたんだ。
「カラ松自身はどう変わったんだ?お前の話はしてくれないのか?」
俺はその言葉に何故か返事することができなかった。
えっと、俺は、その、等の言葉を繰り返していたのを見、優しい先生はまた俺の頭を撫でた。
先程よりも優しく、丁寧に。そして言い聞かせるように言うのだ。
「久々の校舎だろ?見て回ってこい。帰る前にまた職員室に寄ってくれ。その時お前の話を聞こう」
俺はゆっくり頷き ありがとうございます と小さく礼を言い、校舎を回ることにした。

職員室は昔と同じく一階にあったからな。一階から見て回ることにした。
一年生の時に毎朝来ていた教室。よくお世話になった保健室。どれも懐かしい。
ゆっくりゆっくり、一つずつ思い出に浸るかのようにみる。
三階、高校最後の年を過ごした教室。最後に見た時よりも綺麗になったそれをこの目に焼き付ける。
何故あの時俺は自分自身の話が出来なかったのだろうか。
答えは出なかった。×××先生には悪いが俺の話は出来そうにないな。
申し訳なく思いつつも職員室へ行こうと階段へ近づき気が付く。否、正確には思い出したのだ。
俺はまだ全てを回りきっていない、と。
カギがかかっており行けなかった屋上にすら扉の前まで行ったというのに、それすらしなかった場所。
視聴覚室 だ。
三年間通っていたにも関わらず俺は一度もそこへ行くことはなかった。
そのためか忘れてしまっていたんだ、その存在そのものを。
行ったことのない場所へ行く意味を見出すことは出来なかったが、思い出したのも何かの縁だ。
職員室へと行くために階段へと向けていた足を方向転換し、早歩きでそこへと向かった。
二階の隅にその部屋はあった。
少し異様な雰囲気を醸し出すその扉はひどく冷たく、重そうな扉は予想外にすんなりと開いた。
電気をつけようとスイッチに触れると手に埃がついた。恐らくほとんどこの部屋を使ってはいないのだろう。
明るくなった部屋を見渡す。大きなスクリーンに1クラス分の机と椅子。
特に何もないな、と結論付け部屋から出ようとしたときに気が付いた、気が付いてしまった。
とある机の上に一冊のノートがおいてあることに。
見つけたからには放っておけないというのが人間というものだろう。
ずっと開くために抑えていた扉から手を放し、一歩また一歩と吸い込まれるかのようにノートへ。机へ、教室へと入っていく。
教室の真ん中あたり、スクリーンがよく見えそうな位置の机の上。
そのノートには見覚えのある字で、確かにこの俺自身の文字で名前が書かれていた。
「松野カラ松」と。
息をのむ音が聞こえる。震えるその手を必死に抑えようとしながらもノートに手を伸ばし開く。
どうやら日記のようだ。
この日アレをした、この兄弟と遊んだ。
たわいもない日常を書いただけの何の変哲もない日記帳。しかしおかしいのだ。
日記の内容全てが記憶にない。いや少し違うな、記憶が俺の持っている記憶と違うのだ。
良く分からないから例をあげろ、か。おそ松の言う通りその方が分かりやすいな。
例を挙げるならばこうだ。
俺の記憶では高校時代「バスケ部」に入っていた。しかし日記の俺は「演劇部」だったのだ。
分かってくれたか?ならよかった。
ほとんどの内容がこのような感じなのだ。根本的なナニカが違う。
これ以上読まない方がいい、と頭が脳が警告を出すものの体は言うことを聞かない。
ページをめくってしまう、文字を目で追ってしまう、内容を頭にいれてしまう、違和感を感じてしまう。
そしてついに、最後のページにまでたどりついた。そのページにはただ一言
「その椅子に座れ」とだけが書いてあった。
きっとスクリーンのよく見えるこの席につけということなのだろう、理解した瞬間
バン、大きな音が響く。音のした方へと顔を向けなくても何故かわかってしまう。
ああ、扉が閉まった。きっと開かぬのだろう。
もはやそれは諦めの境地に近かった。
椅子をひき腰掛ける。と同時に電気が消えスクリーンに光が宿った。
誰が、等は思わずただただそれを現実だと受け入れていた。

3,2,1
どこかで見たことがあるようなカウントダウンの後それは始まった。
大きなスクリーンに映るは一人の男、そう松野カラ松。
まるで死んでいるかのように動かないそれはこの学校の制服を着ており、近くには薄汚れた学校鞄がおいてあった。
きっと卒業式が終わった後なのだろう、制服の第二ボタンは無くなっており、顔には涙の跡がついていた。
勿論俺はこのような映像を撮られた記憶もなければ、この服装のまま寝た記憶もない。
どこか他人事のように見つめていたそれに変化は突如として現れる。
男の話声、複数の男の話声が聞こえるのだ。
「NO.68も終わったか」「持った方だろう」「NO,1よりは進化してきている」「もう少しだ」
訳のわからないその会話の意味を俺は嫌とでも知ることになる。
スクリーンに文字が出てきたのだ、まるでタイトルコールをするかのように。
【クローン実験】
と。そして映像が変わる。松野カラ松を映していただけの映像が変わってしまう。
段々と遠のいていくカメラ、小さくなる松野カラ松。
そして、その周りには、
まるでガラクタかよのうに積み上げられた多くの松野カラ松が転がっていた。
身体のどこらかしらにそれぞれ違う小さい数字を残して。

「その日俺はどう帰ったか覚えていない。これで俺の話は終わりだ」
どうだ、退屈しなかっただろう?
なんだトド松?質問があるなら泣き止んでからにしてくれ。
その話は本当に俺が体験したことでは無いのか?ああ、勿論だ、安心してくれ。
この話は、【この】俺は体験していないぞ。
では、ろうそくを一本消すぞ
 

そう話しを締めくくるカラ松兄さんの目には「70」と数字が浮かんだように見えた

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