ペット

お題:ペット/むてきTトド松小説

 一日目
 ペットを拾った。
 人数合わせに呼ばれた散々な合コンの帰り道、ペットは切れかけの街灯に照らされた電柱の下にころん、と転がっていた。普段なら、道に落ちているものなんて現金以外は大抵スルーするのだけれど、兄さん達には内緒で言った合コンの、主に愚痴なんかを誰かに話したかったのかも知れない。ほろ酔いを少し過ぎる程度に飲んだお酒の勢いもあると思う。何はともあれ、ボクはそのペットを躊躇うことなく拾い上げて、掌に乗せた。大きさ的には小動物の部類だろうそれに手足や尻尾は見当たらない。飲みすぎて霞む目ではきっと、小さすぎて見えないのだろう。
 小動物なら、SNSなんかで頻繁に回ってくる小動物がカップに入って居たりオモチャにじゃれ付いたりしている動画を撮ってアップすればあわよくばのワンチャン、有るかも知れない。そう思うとペットがやたらと可愛く思えて、ボクはそれをトートバッグにそっとしまうと足取り軽く、自宅へと急いだ。きっとこのペットはボクが一軍へ上がるために天から遣わされたペット、そんな浮かれた事を考えながら。

 

 二日目
 ペットは驚くほど大人しくて、明るいうちはずっとトートバックの中に居る。小屋やケージの隠し場所を考える必要は無さそうだ。
 夜中に、見つからないようにトイレに連れ込んで撫でてあげたらボクの手にじゃれ付いてきた。とっても可愛い。早速スマホで動画を撮ろうと思ったら画面が真っ暗になってしまった。近いうちに修理に出さないと。

「あらら? トッティ寝不足?」
 おそ松兄さんがもはや芸術的ですらある寝癖を直しもせず、ボリボリ腹なんて掻きながら起きだしてきたのは昼を大分過ぎた頃だった。ペットと朝方まで遊んでいたからたしかに寝不足で、さっきから欠伸が止まらないボクをニヤニヤと窺うこの兄さんは、きっとろくでも無い想像をしているに違いなかった。
「おそ松兄さんこそ、こんな時間まで寝ちゃってさぁ、何かいい夢でも見たんじゃない?」
「そうそう、そうなのよトッティ、わかってるねぇ!」
 パツキンのチャンネーと黒髪清楚な妹系にお酌してもらいながらビールを浴びるほど飲む夢を見たというおそ松兄さんは、ボクの向かいにドッカリ腰を下ろして尚も話し続ける。夢で見た煮込みの美味さ、いくら飲んでも悪酔いしないビール、ピンク色の空。そんな話を聞き流しながら、とにかく話を逸らす事には成功したらしいと胸を撫で下ろしたのだけれど。
「あ、そういや夜中一回起きちゃったんだけど、トッティ居なかったよね?」
「そうだっけ? あ、トイレ行ったんだ、寝る前にお茶飲みすぎちゃってさ」
 ニコニコと、当たり障りのない笑みを見せれば、おそ松兄さんはふーんそうなんだぁ、と納得した様子で、また腹を掻きながら立ち上がった。この人が出かけてくれれば家にはボク一人。早くペットと遊びたい。廊下に半歩踏み出したおそ松兄さんが、あれ、とか何とか言いながら芝居がかった動作で首を捻る。なんでも良いから早く出かけて、そんな念を送るも空しく、おそ松兄さんはボクの方に向き直った。
「でもたしかそん時、チョロちゃん居たよ?」
「チョロ松兄さんが居たら、何か問題でも?」
「トッティったらいつの間に一人でトイレ行けるようになったの?お兄ちゃん聞いてないんだけど」
 そっかそういえば。ボクは夜中に一人でトイレに行けないんだった。何で忘れてたんだろう。ペットと一緒だったから行けたのかな。何にしたって気を付けないと、気付かせてくれてありがとう、おそ松兄さん。感謝を込めて最高に可愛く見えるはずの笑顔で、たまたまだよ、と小首を傾げれば、途端に興味を無くしたように今度こそ出て行ってくれた。ボクの頭の中はもう、ペットと遊ぶことでいっぱいだった。

 

 三日目
 ペットは今日も可愛い。随分と懐かれた様で、肩に飛び乗って来たりすり寄って来たり本当に可愛い。抱きしめて、撫でて、頬ずりして、一日中こうして居たい位。そう言えば少しだけ大きくなったような気がする。もしかしたら小動物より少し大きくなる部類だったのかも。今日も動画を撮ろうとしたけれど相変わらず画面は真っ黒。やっぱり修理に出さないと。ペットの動画をSNSに載せるのが目的だった筈なのに、そんな事よりもこの可愛い姿を記録に残しておきたくて堪らない。本当に、可愛い。

 今日も今日とて、ニートばかりの我が家には平日の真昼間だって言うのに人が絶えない。それでも一人出かけまた一人、少しづつ減って残すところあと一人。コイツさえ出かければ広い所でペットと遊べるのに、ペラペラと薄い無料冊子を捲るばかりで、一向に出かける気はないらしい。
「あ、そうだトッティ」
 おそ松兄さんから聞いたんだけど、なんて面倒な気配しかしない枕詞。溢れんばかりの面倒と言う感情をあぁうん、の一言に込めてやれば、チョロ松兄さんはへの字に下がった口角をさらに下げた。
「そんな面倒くさそうにすること無いだろ。いや、大したことじゃ無いんだけど……夜中に一人でトイレ行けるようになったって?」
 あぁまたそのはなし。別に良いじゃん、ボクが一人でトイレ行ったって。怖くないんだから一人で行ってるだけ。喉まで出かかった言葉はぐっと飲みこむ。ここは当たり障りなく収めておく方が得策、そう思いなおして選んだ表情は困り顔。眉を少し下げて、ちょっと上目にチョロ松兄さんを見つめる。
「声はかけたんだけど起きなかったから……チョロ松兄さん疲れてるのかと思ってさ」
 きっと心配しているように見えただろう。チョロ松兄さんは表情を和らげてそんな気使うなよとか何とか言いながらまた薄っぺらい雑誌を捲り始めた。一先ずはこれで、夜中に一人でトイレに行く事に関してはこれ以上追及されることは無いと思う。
「でもさぁ、トッティ」
 まだ何か。トッティトッティうるさいな。苛立ちは声に出てしまいそうな程、だからボクは首を傾ける。無言のまま続きを促すには最良の選択だ。そして思惑通り、チョロ松兄さんは口を開く。また面倒な事を言うために。
「また何か僕達に黙って何か始めてない?」
 そう言えばなんで、ボクはペットについてこの人達に黙っているんだっけ。

 

四日目
 想定外。いつも通り夜中に布団を抜け出してペットと遊ぼうと思ったのに十四松兄さんが起きていた。布団に座って耳を塞ぎながらキョロキョロ目玉を動かしていたから目が合ってしまった。仕方なく「どうしたの?」と聞いてみたら「うるっさくて眠れない」なんて言い出した。誰よりもうるさいくせに何を、言っているんだろう。こんなに静かな夜なのに。仕方がないから居間で寝るように促したけれど、そのせいでペットと遊べなかった。寂しがってないと良いんだけど。ボクは寂しい。今日遊べない分、明日は思いっきり遊んであげよう。そうだスマホ、修理に出しに行こうかな。

 
 ふざけんな、苛立ち交じりに吐き出すと、クソみたいなサングラスの顔に明らかに動揺の色が浮かんだ。
「動画撮れないって言ってんのに異常は無いですねって、何なの? ボクのスマホは動画撮れないのがデフォなの?」
 朝からカラ松兄さんを連れてわざわざ駅前のショップまでスマホの修理に行ったのに。二時間待って少し調べて異常は無い様ですが、なんて速攻で返されたスマホを力任せに握りしめる。異常が無いなら何だって言うのさ、これじゃあペットの動画、また撮れないじゃん。
「だがトッティよ、たしかに異常は無かっただろう?その画面は確かにこの美しい現世を映し出……」
「うっさい!撮れないもんは撮れないんだっつってんじゃん!」
 おーぶらざーじゃねぇよ、死活問題なんだよこっちは。もしかしたらあの店員が新人で対応しきれなかったのかも知れないし、確か隣の駅にもショップが有った筈。どうせボクもカラ松兄さんも時間だけはあるんだしもう一軒、行ってみようかな。
「ねぇカラ松兄さん、隣駅まで行くけど付き合ってくれるよね?」
「いや、今日はもう帰ろう」
 即答だった。珍しく強い口調に少しだけ隙が出たのかも知れない。気付いた時には腕を掴まれていて半ば引き摺られるように家の方向へと歩き出していた。
「ちょっと! 何勝手に帰るとか言ってんの? ふざっけんなよ!」
「少し、寝た方が良い。酷い顔色だ」
 眠くなんか無い。だって昨日はちゃんと寝たんだ。別に体調だって悪くないし。こんな時間に帰ったってどうせ誰かしら家に居てペットと遊べないんだし、だったらスマホ修理してもらって今夜ゆっくり遊んだり動画撮ったり、したいのに。けれど力では到底敵いそうもなく、ボクはズルズルと引き摺られながらとうとう家の前まで来てしまっていた。あぁそうだ、と玄関を開きかけた手を止めてカラ松兄さんが振り返る。
「オレの動画ならエブリディ、エブリタイム撮れるんだ、そんなに焦ることは無いさ」
 流れる様な動作で外されたサングラスを今すぐカチ割りたい。手が出る寸前、何かが割れる音に体が固まった。二階で誰かが暴れているらしく、何か、多分窓ガラスの割れる音や数人の足音が立て続けに聞こえてくる。二階には、ペットが居る。巻き込まれでもして、怪我なんかしたら、どうしよう。
「カラ松兄さんそこどいて!」
 玄関の前でおーでんじゃらーすとか何とか言ってるカラ松兄さんを押しのけて中に入ると玄関に置かれた靴は四足。急いでいたからそのうちの何足かを踏みつけてしまったけれど構っていられなかった。ペットが危ない。守らなきゃ。その一心で駆けのぼった階段の先、いつも寝ている部屋の襖を勢い任せに開いた。
「ねぇちょっと! 何暴れて……」
 地獄絵図。どうせおそ松兄さんとチョロ松兄さんあたりが喧嘩でもしてるんだろうと思っていたのだけれど、予想外。窓ガラスが割れてその欠片が散らばった室内で、おそ松兄さんとチョロ松兄さん、それに一松兄さんの三人がかりで押さえ込まれながら尚も暴れ続けているのは、まさかの十四松兄さんだった。
「来ちゃだめだよ! 何か居る! この部屋変な音する!」
 変な音なんて、十四松兄さんが暴れる音しかしない。兄さんたちが何とか宥めようとワーワー言ってるのを聞きながらペットが入っているトートバックの隠し場所、押し入れに目を遣ると幸いにもそこは無事な様だった。だったら別に良いかと胸を撫で下ろしたところで漸くカラ松兄さんが来て、また英語でイタイ台詞を吐きながら十四松兄さんを止めに入る。こんな混沌極まりない所にペットを隠しておくのは危ない。同じ顔の大人が五人、団子みたいになってワーワーやってるのを横目に、押し入れからペットの入ったトートバッグを引っ張り出して部屋を出た。誰かが引き留めてたような気もするけれど、今日はこのまま何処かゆっくりペットと遊べる所に行こうと思う。危ないし、それに変な音がする家なんて、十四松兄さんの気のせいかもしれないとはいえ、何だか怖い。

 

 五日目
 暗くなるまでプラプラして、フリータイムで入ったカラオケで朝までペットと遊んだ。もう最高。誰にも邪魔されずに思いっきり撫でたり抱きしめたり。早くこうすれば良かったんだ。ペットはやっぱり寂しかったみたいで、せっかく家のトイレよりは広い部屋なのにボクから離れようとしない。可愛い。抱きしめたまま朝まで寝た。狭いベンチみたいな椅子の上だったけれど、何だかとても幸せだった。ずっとこうして居られたら良いのに。

 昼を少し過ぎた頃、所持金も少なく渋々と帰宅したボクを、偶然なのか玄関で出迎えたのは一松兄さんだった。やる気無さそうな半開きの目でボクの顔をジッと見てから、やっぱりやる気無さそうに「顔洗って来れば」と言い残して二階に上がって行った。言われなくても、汗でベタベタするから顔は洗うつもりだったけれど、そんな事より問題は、二階に一松兄さんが居ると言う事。どうやってペットを押し入れに隠そう。一先ずは、洗面台の下の収納に居てもらって、後で迎えに来ようかな。居間や台所よりは安全かも知れない。

 ペットを隠して、顔を洗ってから二階に上がると、一松兄さんはだらしなくソファに寝そべってネコじゃらしを振っていた。誰も居ない、ネコだって居ない空間で何をしているんだろうとジッと見ていたら「なに」と不機嫌そうにこっちを見た。
「ネコ居るの?」
「いや、居るのかと思って」
 言っている事の意味が分からない。黙って首を傾けると一松兄さんはさもめんどくさそうに口を開く。
「十四松が何か居るってうるさいから……ねこでも隠れてんじゃないかって、思って」
 一晩中話聞いてたからから眠れなかった、欠伸交じりに呟く一松兄さんの顔は確かに、隈なんか出来ていて寝不足そのものと言った顔。適当に床に座るとまた一つ、欠伸が聞こえた。
「昨日、あの後もずっと暴れてたの?」
「いや、いつ、何処から、どんな音が聞こえたのか、とか……聞き出してた」
「ふーん。で、何かわかったの?」
 変な音がする家とか普通に怖いから、早く原因が分かると良いんだけど。完全にソファと一体化していた一松兄さんが起き上がる。眠たそうな半開きの目は、それでもしっかりとボクを見据えた。トド松、どこまでもやる気の感じ無い声で呼ばれる。そう言えばちゃんと名前で呼ばれたのは久々で、逆に新鮮な気持ちだ。
「お前さ、何か隠してない?」
 ガラガラと玄関が開く音が聞こえる。足音は四人分、兄さん達が返ってきたらしかった。マズい。他の三人はどうだか知らないけれどチョロ松兄さんだけは確実に、帰ってきたら手を洗う。もし、万が一収納を開きでもしたらそこのはボクのトートバッグが不自然極まりなく置いてあるのが見付かってしまう。
「何か、って……あ、合コン? ごめんね、兄さん達に内緒で合コン行ったんだ。でも人数合わせだよ? 別に何の収穫も無かったし、」
「昨日、家出るとき……何持ち出した?」
「普通にカバン、だけど」
「トド松が、変な音がするやつ持ってったって、十四松が」
 ボクのペットは静かだ。変な音なんか出さない、とても静かなペットだ。静かで、大人しくて、可愛い、ペット。可愛い、あれ、何でボクは、可愛いペットの顔を、思い出せないんだろう。
「……その三回位死んでそうな顔色にも、関係あるんじゃないの」
 何なんだろう、皆して顔色悪いだなんだって、別にいつも通りじゃん。何なんだろう、何でこんな、何か、変だ。一階から十四松兄さんの見つけた、なんて声が聞こえる。ペット見つかっちゃったのかな。早く助けに行かなきゃ。けれどボクが立ち上がるよりも先に、部屋の襖が開いた。恐る恐る窺うと、見慣れた赤。少しだけ汗がにじむ顔にそれでも軽薄そうな笑みを浮かべるおそ松兄さんは「はなし、有んだけど」何でも無い事みたいに、けれど有無を言わさない口調で、言った。 

 丸い卓袱台を囲む。ボクの左右におそ松兄さんとチョロ松兄さん。向かいで警戒心剥き出しの犬みたいになっている十四松兄さんはカラ松兄さんと一松兄さんに、半ば押さえつけられるように挟まれている。そして卓袱台の中心には、トートバッグに入ったままの、ボクのペット。十四松兄さんが「変な音と変な臭いがする」と嗅ぎまわって、見つけ出してしまったのだそうだ。見つかってしまった。幸いまだ、中を見ては居ないらしい。取り敢えず説明してと、言われたところで、合コンの帰りに、ペットを拾った。でもペットは鳴かないし臭いもしないから、そこはきっと十四松兄さんの気のせい。そんなような事を言えば良いんだろうけれど、何故か言い出せないまま、時間だけが過ぎていく。
「もう単刀直入にさ、何なの、これ」
 沈黙を破ったのは、チョロ松兄さん。これ、つまりトートバッグに全員の視線が集まる。もう、言っても良いだろうか。べつに黙っておく必要も無い筈なんだ。意外と皆可愛がってくれるかもしれないし、元々不特定多数に見せびらかすつもりで拾ったんだし。
「……ペットを、飼い始めたんだ。合コンの帰りに拾ったんだけど」
 夜中にこっそりトイレで遊んでた事、だから少し寝不足の日が有った事、とても可愛い事、合コンの帰りに拾ったと言った時幾つかの舌打ちが聞こえた以外はとても静かに、兄さん達はボクの話を聞いていた。そしてまた、沈黙。黙って、変な顔をしている。そんなに黙って合コンに行った事が引っかかるのだろうか。それとも、誰か生き物が苦手だっただろうか。どちらにしたってもう話してしまったんだ。これ以上可愛いペットを狭いトートバッグの中に閉じ込めておく必要は無かった。けれど出してあげようと伸ばしかけた手は、十四松兄さんのダメだよ、の一言で制されてしまった。珍しく笑っていない十四松兄さんは、開きっぱなしである筈の口すら閉じている。
「トド松、それ、ダメな奴だよ」
 静かな、けれど強い口調。こんな十四松兄さん、見たことない。
「……おれも、それダメな奴だと思う」
 見て、と差し出された一松兄さんの腕には鳥肌がびっしりで、カラ松兄さんもうんうんと頷きながら服だけじゃなく顔色まで青くしている。ダメな奴って、何。ボクのペットの何がダメなの。可愛いよ、可愛いんだよ。
「僕もダメな奴だと思うよ、トド松」
 チョロ松兄さんまでそんな事を言い出した。だから何がダメだって言うのさ。
「トド松さ、この中に居るやつ、どんなやつ?」
 おそ松兄さんがトートバッグを手に取った。勝手に触らないで、ペットが怖がったらどうするの。
「どんな、って……可愛いよ」
「ふーん、可愛いんだ」
 どこが?トートバッグを覗き込んだおそ松兄さんの顔が引き攣る。チョロ松兄さん、カラ松兄さん、一松兄さんの順にトートバッグは回されて、みんなそれぞれ引き攣ったり、小さく悲鳴を上げたり、一体何を見ているんだろう。
「可愛いでしょ? すっごい人懐っこいんだよ、大人しいし。飼ってて良いでしょ?」
「カラ松ぅ、それ、何に見えた?」
 おそ松兄さんの問いに、カラ松兄さんの肩がビクリと跳ねる。サングラスを掛けたり外したり、明らかに動揺しながら、「敢えて言うなら……肉、だろうか」と不可解な事を言い出した。「腐った肉。ウゾウゾしてる」一松兄さんが嘔吐きながら言うと、チョロ松兄さんが頷きながら「明らかに死んでるのに生きてる」と。何言ってんだこいつら。ボクのペットは。「ダメな奴。ガラス引掻いたみたいな音してる。腐ってる。変な臭い」十四松兄さんが今にもボクのペットに飛び掛りそうなのを、カラ松兄さんと一松兄さんが必死で抑えている。「お兄ちゃんも皆と同意見」おそ松兄さんがもう一度トートバッグを覗いて、それをボクに差し出した。
「トド松には何に見えてんの?」
 そんなの、可愛いペットが見えているに決まってる。だって可愛いんだ。懐っこくて、あれ、でも、ボクのペットはどんな見た目で、どんな動きで、どんな風に可愛いんだっけ。
「見ねぇの?」
 おそ松兄さんの声に被さる様に、キィキィと不快な音が聞こえる。トートバッグから漏れ出すそれは徐々に大きくなってギーギーと、まるで黒板を引掻いたみたいな、嫌な音に変わる。きっと早く外に出たいんだ。今
出してあげる、出してあげたい、なのにボクはどうしても、このトートバッグの中を、見たくない。怖い。何これ。あの日ボクが拾ったのは。拾ったペットは。
「な、ダメな奴だろ?」
おそ松兄さんの声が遠くに聞こえる。何故かはっきりしない視界に映ったのは、黄色の何かに奪われたトートバッグが、ボクのペットが、床に叩き付けられて、そして。

 

六日目
 ペットが死んでしまった。いつの間にか寝てしまったボクが知らない間に、ペットは何処かに埋められてしまっていた。あれはダメな奴だったから、それしか言わない兄さん達に、ボクもそれ以上聞くことが出来なかった。結局ボクは何を飼っていたんだろう。可愛かった筈なのに、何が可愛かったのか、全く思い出せなかった。

 夕方、今度こそスマホを修理に出そうと一人で外に出た。出掛けにチョロ松兄さんから「もう変な物拾うなよ」と有り難い忠告を受け、まっすぐショップへ向かい、やっぱり異常はありませんと突き返された。不思議なことに、ボクのスマホは動画が撮れるスマホに戻っている。けれどもう撮るものが無い。

 嬉しいような寂しいような、複雑な心持で暗くなり始めた帰り道を行く途中、切れかけの街灯に照らされた電柱の下で、ペットを拾った。
 

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