知らない人から受け取ったものはドブでもいいからコンマ1秒以内に捨てろ

お題:耳なし芳一/坂倉花梨おそ松カラ松チョロ松一松十四松トド松小説

第云百幾回目6つ子会議、松野家居間にて開催。
6人は普段の行いからは考えられないような真剣な表情をしてちゃぶ台をぐるりと囲む。
つい数分前に「家にいるニート松全員しゅうごーっう!!」との大声を家中に響かせたおそ松。彼の右側には同じ部屋にいたおそ松の大声に対し一番に「うっせぇハゲ!!」と怒鳴ったチョロ松。さらにおそ松の左側には、前途2名と同じく既にこの居間でインスタ○ラムを詰まらなさそうな目で眺めていたトド松。そんな彼の隣には静かに2階から参上仕り、本人曰くナイスな座り方で位置についたカラ松。それを同じく2階から駆け下りて廊下の床を蹴り、見事なドロップキックをかまして沈めた一松。
そして、おそ松の真正面・・・・キュッと閉じられた口で普段通りの弧を描き鎮座する十四松。
彼らの囲むちゃぶ台の上には耳が二つ並べられている。

そこのあなた、幻覚ではない。
人間の耳が2つ、ちゃぶ台の上に並んでいる。

これ以上無い異様な光景だが、これを真剣な顔で凝視しているとあっては余計に異様さに拍車がかかる。
さて、人の頭で人の知識を基にし考えるならばこの現状はありえない。理解しようとするだけ無駄である。何故かと問われれば、普通人間の耳が一般家庭のちゃぶ台の上に2組1セットで置かれているなんてことはないだろうし、乱暴にちぎったらしい引き裂かれたような肉の断面から血が一滴も垂れていないのは人間の体の構造上ありえない。
もっと言えば耳1セットのおまけとばかりに隣に置かれている木製の楽器もありえなかった。
特徴的な形と木の木目、これは琵琶という楽器だ。

「それで・・・・押し付けられて、捨てるに捨てられず持って帰って来たってこと?」

静寂の中、トド松の問いに十四松は反論をすることもなく1回頷く。

「近所で見たことのある人じゃなかった?」

首が横に振られる。

「イヤミが変装してるとか」

またも横に振り否定。

「ドッキリ落ちとか」

横。

「その人に耳はなかったの?」

縦。

「つーかよく考えたら十四松が嘘付くわけないか」

この天使に対する過信が後に大きなホラーとなるのはまた別の話。
とにも今は緊急事態だ。元凶たる不吉の権化を家に持ち込んでしまった張本人は「ごめん」と小さく呟いた。おそ松はその肩に腕を回して「まぁさぁ」と罪の意識を感じている十四松を宥める。

「持ってきちゃったならしょうがないじゃん
家から出なきゃいいんだろ?」

ニート万歳、引きこもりではないがニート故に予備軍。家から出ないことは彼らにとって難しいことではない。ドロップキックから話の途中に腹パンまで食らったカラ松は静かにうんうんと頷いている。
家は安息の地、下手なことをしなければ危ないことはない。

バンッ!!

「ヒッ?!何?!!」

「・・・家から出なければいいんだよな?」

「わ、わかんない
待っててって言ってただけだから」

バンッ!ガンッ!!

「おい・・・壊れるんじゃないか?」

「せめて2階に行く?」

「2階じゃ万一入られたら逃げ場がないから駄目
危険度でいったらここと五分五分だけど」

外側から強く叩き続けられギシギシと悲鳴を上げる玄関の戸。鍵なら最後に飛び込むように帰って来た十四松が開けっ放しにしている為かかっていない。
つまり叩いて

『ここを開けろぉ、開けろぉ』

開けろと催促するのは、許可を得なければ家に入れない、”人間ではない何か”であるということだ。
バンバンと叩かれ続ける築云十年の家の戸は実のところ、様々な理由で年に数回は全壊して修理している為常に新品も同様。放られたカラ松が激突したり、十四松がタックルをかましさえしない限りは壊れないだろう。だが逆を返せばそれと同等、もしくはそれ以上力を入れられれば戸は壊れてしまう。
だからといって外の何かをどうにかできるわけでもないのだが、それにしては揺れる戸を落ち着き払って眺めている6人は再び、ちゃぶ台の上にある耳と琵琶へ視線を向けた。

 
 

それは本日、心地よい風とこの季節にしてはやわらかく明るい日差しの中、十四松が一人野球から帰っている最中のことだった。彼の日課はその日その時気に入った場所での一人野球と、川や海での遊泳だ。
今日も今日とて全力を尽くして遊びほうけた彼は、お昼ご飯を求めてご機嫌に帰路についていた。
午後は何をしよう、なんて考えつつも住宅地を家へと向かい歩いていると、後ろから駆けてくる音にどつかれた。よろめいた十四松はおっととバランスを崩しつつも、後ろから突っ込んできた相手の顔を見ようと振り返る。

「どぅあっ?!大丈夫っすカッスラー・・・ケガ?!お兄さんケガ人っすか?!!」

最初こそ反射条件での声かけだったが、ぶつかってきた人物の容姿を見て十四松は驚いた。全身いたるところに黒い斑点。怪我というよりは皮膚病だろうか?
とにもよろめいた男性は、驚いた声を聞くと両目を閉じたまま十四松に迫った。よく見ればこの人の顔の両側には人間に備わっている筈の両耳が無く、無造作にちぎられたようになっている側面は肉が見えるだけで血は一滴も垂れていない。ここで漸く十四松は宜しくない事に巻き込まれてしまったと気付いた。
至近距離のに近付いてきた男性は手の内の何かを十四松に押し付けると早口でまくし立てた。

「どうかこれを預かってください」

「えっとえっと、ぼくん家お寺だから」

何かとこういうことに巻き込まれやすい6つ子達はこういう時に言う言葉を決めてある。大抵はこれで引き下がってくれるのだが、今回はどうにもそう簡単に済む案件ではないらしい。

「後で受け取りにお宅へお伺いします
それまで誰が来ても絶対に戸を開けないでください
よろしくおねがいします」

「聞いてよーっ!!ぼくの話聞いてよーっ!!」

自分で言うのも難だが、まさか普段人の話を聞かない側である自分がこの台詞を口にすることになろうとは思ってもいなかった十四松。両耳の所在が不明な男性は手荷物から手を離すと走り去ってしまう。待ってー!と叫ぶも男性は止まらない。
勿論ここで追いかけないわけもないし、この時点での男性との距離は十四松の足の速さであれば十分追いつく距離だ。いっそのこととっ捕まえて背負い投げをする余裕だってある。
しかし十四松は一歩踏み出した足を止めた。

ぞわり、と背を走る悪寒ーーーーー

“なんかいる?!”

思わず一歩目の足を引いてしまう。数は4、5ほどだろうか・・・とてつもなく強力な、嫌な気配が男性の走ってきた方向から漂ってくる。しかも此方に移動してはいないだろうか?
これはヤバいやつだ、と直感的に悟った十四松は男性の向かった道ではなく、自分の家へと走った。あそこなら駆け込めば一先ず考える猶予くらいは作れる。
手の内のそれを放り出すわけにもいかず、確認しようにも時間のなかった彼は視界の端に見えた肌色にまさかと思いつつも安置へと激走した。

 
 

で、血相を変えて家に駆け込んできた十四松により持ち込まれた耳一式と琵琶はおそ松、チョロ松、トド松に激震を与え、冒頭の6つ子会議にかけられたのである。
しかし展開が早過ぎた。相手はどうも短気なようで、開けろぉ、開けろぉ、と低く唸るように言っていたのが、数分経った今では開けろォオッ!!開けろォオ〝オ〝ッ!!!と地響きのような怒鳴り声を上げて玄関の戸を破壊せん勢いでぶっ叩いている。他人様の家なのだからもう少し丁重に扱ってはいただけないだろうか。

「聞こしめせと、恐み恐み白す・・・・どう?」

「全ッ然ダメ!!!般若心経も効かないしあいつら何者?!」

「雑魚じゃないことは確かでしょ
はい、酒と塩
無いよりマシだと思う」

「ふう・・・・オレのシルバーとトッティーの携帯小説で結界を張ってきたがこの分だとすぐに壊されるぞ
この後はどうするんだ?」

「まことに申し訳ありまセントラルリーッグ!!!」

「もういいから、お前はそれに結界張って」

「ウッス!」

「はぁー松代が帰ってくるまでになんとかしなきゃいけないけど、どうすっかなぁー・・・・っと、ほいっ!」

紙切れ6枚を人の形に切ったもの、それらをおそ松は玄関の方へ放る。瞬間に紙切れは黒く染まりビリィッと四散した。これにはおそ松も失笑だ。

「あーあ、せっかく作ったのにもうビリビリかよぉ〜」

さらにはバキ、ベキ、と何かがしなり折れかけている音が響く。その音に混じりビリッ、メキ、という紙の破れる音が・・・

「女の子に勧められた本だったし興味なかったからいいけど
カラ松兄さんのってクロムハーツでしょ?高くなかったっけ?」

「いや、あれは貰い物だからいいんだ
それにクロスは好みじゃなくてなぁ、丁度持て余していたんだ」

「うわぁサイコパスひどっ」

容赦のない攻撃は戸を挟んですらこのザマだ。申し訳程度の経も効かなければ素人の結界なんぞ玩具の積み木も同然。どう考えても狙いは耳と琵琶だろうと十四松に結界を張らせて気配を掻き消そうとするも相手は帰ってはくれない様子。未だ「そこにいるのはわかっているぞ芳一ぃ」と何やら聞いたことのある名を呼んでいる。しかしこの家に芳一という名の人間は存在しない。となれば浮かぶのは十四松が呪われた道具達を受けとった人物以外浮かばないだろう。
もういっそのことこれらのブツを差し出してしまおうと、飽きて面倒になり始めたおそ松が投げ出そうとしたが、そもそもの話、近付くだけでもその邪気にやられかねない。最早籠城して戸をぶっ壊される以外に他、策が無いのだが、彼らは取り乱すこともなく慣れた手つきで対応していた。
 

約10年ほど前のことだったろうか。霊感というものは、どうやら遺伝ではなく唐突に個人に備わるものらしい。細胞までも分け合った6つ子達はきっかり同じ時間同じ場所でその力を開花させた。といっても最初は見えなかったものが視えるようになった程度。当時中学生だった彼らはこれに臆することなく、寧ろ悪戯好きの彼らには玩具も同然だった。
だが楽しいだけで済まないのがこの世界の厳しい所。彼らは近所でも有名な”出る”と噂の廃屋に肝試しと称して出向き、早々に痛い目を見た。
今まで視てきたモノとは違う、明らかに害のある怨霊。某R18Gゲームだってもう少し可愛げがあるだろう血塗れの風景。
極めつけは実体のある死体を見てしまったことだろうか。付近で行方不明者が後を絶たないとの噂にも魅かれての肝試しだったのだが、廃屋に轟いだ悲鳴はまぁ6人分ということもありそれなりに大きかった。
それからというもの、彼らは華麗に掌クルーをキめて『命がいくつあっても足りない』と接触を避けるようになった。だがそれで避けられるようなら苦労はしていない。
一卵性の6つ子という珍しい魂に寄ってくる神から妖怪。視えているとわかった途端に縋ってくる浮遊霊、道すがら攻撃してくる悪霊・・・・オールデイデンジャー、SANチェックのお時間です。
面倒事に巻き込まれることも少なくはない。世の中には霊媒体質という幽霊ホイホイなる体質もいるというのだから、それじゃないだけまだマシだろう。
大抵面倒事を拾ってくるのは小6メンタルの興味本位で動くおそ松、もしくは頼まれると断りにくい一松か慈悲深き天使十四松。最近は何事もなく平和に過ごしていたのだが、今回のように無理矢理押し付けられることも稀である。
 

彼らも最初から自衛の術を知っていたわけではない。
キッカケは長男、彼らの核たるおそ松が異世界に攫われた事から始まる。それ自体は何もなかったというか、カラ松達が探す間にも本人が平気な顔をして自力で脱出した。だがこのままでは最悪1人くらい死んでもおかしくないと本気で危機感を感じた彼は、珍しくも長男らしく提案したのである。自衛策を練ろうと。
んなことをいきなり言っても勿論方法などわからない。浮かんで寺に駆け込む程度だ。
霊力で云えば中の下程度。お祓いなんて真似はできない、というかネット知識で試したら何も起きなかっただなんて笑い種だ。それでもなんとか専門の人から習ったり、ネットで調べたり、掲示板で聞いたりと地道に努力を重ねてここまできたのである。努力なんぞクソ食らえだが自分の命がかかっているとあっては必死にもなるだろう。
そうしてそれぞれ得意な分野もわかってきた。
おそ松は替え玉、もとい身代わりを作るのが巧い。騙し欺くのに長けており、特に兄弟であればそっくりそのまま写す事ができる。
カラ松は物を媒体として結界を張ることができる。蹴ったくらいでは割れることはない。十四松も結界を張ることを得意とするが、此方は媒体が必要ない上気配も消せる。代わりに少々脆いので何重か張る必要があり、その分小さい。
チョロ松は経を読み文字通り払う程度なら出来る。普段の台詞量からか早口言葉かの様に読むのが異常に早い。
トド松は結界と経の二刀流で応戦する。どちらも兄らのように秀でているわけではないが、2種ある分、やり方も倍以上、手数では負けない。
一松であるが、彼はその場での応戦は得意ではない。代わりにその場一箇所を守ることに長けている。家に結界を張って普段の侵入を防いでいるのも、兄弟にお守りを配って半ば脅迫しつつ持ち歩かせているのも彼だ。
こうして見るとなんだ危険なことなんてないじゃないか6つ子っぉぃなんて思われるかもしれないが、もう一度言う。
彼らの霊力は中の下だ。

ッバァン!ガァンッ!!

ベキッ・・・ぱきっ
 ミシ、ギギッ・・・

「ヤバイ、割れそう」

天井を見上げた一松は他人事のように呟く。一応こう見えて焦っている。因みにカラ松が張った時間稼ぎ用の結界の方は数分前に無残にも散った。

「なんなのかもわからなきゃ対策のしようがないしなぁ・・・」

「ただの幽霊なら壊されたりしないしね
ボクでも追い払えるし」

これだけ追い詰められるのは久方振りだ。なんやかんや、クズとて6人集えば最強1人分くらいにはなる。今回はそれだけでは足りないらしい。

「家の向こう側へおびき寄せることは出来ないのか?」

「やりたいんだけどさぁーっ
数体囲んでるらしくて、邪魔で窓にも近付けねぇんだよ」

なんとなく見える黒いモヤは誰がどう見たって悪霊の類だ。出来るならもう一回作っておこうと結界の媒体を探すカラ松が問えば、おそ松はバラァッと紙切れをぶちまけてお手上げとばかりにぶすくれる。思うとおりにいかないというのは誰しも頭にくるものだ。
試しに十四松が外に向かって張ってみるものの、層を作る前に破壊されてしまう。一松は「付け焼刃だけど補強してくる」と席を立ち、それにトド松がついていった。
それにしても耳と琵琶の持ち主は本当にここにやってくるのだろうか。来たとして、これでは近付くことはできないのでは?となるとやはり自分達にこれらを追い払ってくれという話なのだろうが、あんまり買い被ってもらっては困る。十四松は強い、確かに人間という枠から逸脱しているが、やはり彼は人間だ。それ以上のことは分裂することくらいしか出来はしない。

「おっ」

「一松兄さんミッションクリアー!」

崩れかけていた家を覆う気がピシッとその強度を取り戻す。まぁそれも即効で外の何かに攻撃されるのだが。一先ずは安心していいだろう。すぐ後に一松とトド松もトントンという足音と共に戻ってきた。

「大丈夫っぽいね」

「一松兄さんさすがでんなぁ〜!」

「そうでっしゃろ〜?褒めてもなんもでぇへんで〜」

「上の方は何もいないみたいだけど、おそ松兄さん上からじゃ身代わり使えない?」

「マジ?できるできる!!2階行こうぜ!!」

「待てよ窓開けた瞬間に入ってきたらどうすんだよ?!どう見ても罠だろ!!」

「やってみなきゃわかんないじゃん
十四松ー、囲いよろしくー」

「いえっさー!」

「やってみて駄目だったらどうすんだこのバカ!!ウスラトンカチ!!」

2階なら窓にも近付ける。ならば身代わりを外に投下することも出来るかもしれない。なんとかこの状況を打破するため、約一名の反対も虚しく全員で2階に向かう。彼らの身代わりを使うのだから、同じ気配が2つも在ってはどちらかが偽者とバレてしまう。その為の気配削除要員十四松だ。

「・・・・・」

「クソ松頭からっぽのくせに何考えてんだよ」

「ン?ああ、少し名前が引っかかってな」

「名前って外のやつが言ってた?」

「芳一ってどっかで聞いたことがある気がするんだ」

はたして何処で聞いたことのある名前だったか・・・・2階に移動するまでの最中、ずっと黙っていたカラ松が気になり一松が話しかけてみると、カラ松は難しい顔をして腕を組みうんうんと唸る。確かにどこかで聞いたことのある名前なのだが、かなり昔のことなのか、なかなか思い出すことが出来ない。
一向は無事、2階へ行くと窓付近の安全を確認し、紙人形を持って格子に手をかけるおそ松の後ろへと一箇所に固まる。

「よーしいくぞー」

なんとも軽い掛け声と共に間髪いれず開け放たれる窓。そこへ下めがけてバッと紙人形が放たr

っぱぁん!

「へっ?!」

弾けた。
人の形を成さんとした人形は黒いモヤに触れた途端、玄関での千切れ方とは比較にならない弾け方をして爆散した。勿論この紙人形にそんな時限爆弾のような効果がないことは生産元であるおそ松本人が一番よく知っている。
そしてようやっと見えた相手の全貌、モヤのせいで霞んでいてあまりよくは見えないものの、どうやら甲冑のようなものを纏っているらしく、大河ドラマなんかで見たことのある格好だった。
ギロリと甲冑の奥から光る目と目が合う。

ずばぁあんっ!!

あんなものに入ってこられたら堪ったものではない、廃屋にいる悪霊や地縛霊なんかよりもタチが悪い。おそ松は全身を駆ける寒気に勢いよく、それこそガラスが割れん勢いで窓を閉めた。

「目が・・・目があった・・・・完全にオレ達のこと見てたぞあいつら!!!」

「なななななななんだあれっ?!
あんなもん敵に回してたら俺だってなすりつけるわ!!」

「あわばばばばばししししし死ぬかかかかか確実にししし死死死死」

「一松兄さんバグんないで!!
取り敢えず琵琶師は殺そう!そうしよう?!いいよねぇっ?!」

「いいに決まってんだろケツ毛燃えろカーッス!!
ふっざけんな!武者じゃねぇかっ!!!」

「ごっめん!本ッ当にごめんな三塁打二塁打本塁打死球死球!!!!
やばいやばいやばいよーっ!!!」

「ん?琵琶師・・・・?ハッ!」

「ヒッ・・・ひぃ・・・・はぁ・・・・な、なんかわかったのクソ松」

「あ、あぁ・・・それより大丈夫かお前?
死に際の大老のようだぞ?」

「やっ・・優しすぎかクソッ
それよりさっさと言えよ」

「何カラ松手掛かり見つけたの?!
早く言えよ!!事は一刻を争うんだぞ?!見ただろあの落武者!!」

「ああ、それなんだが」

トド松の発した”琵琶師”のワードに何かに勘付いたらしいカラ松。今はどんなことであろうと情報が欲しいところ。
しかしカラ松の顔色が優れないところを見るに、どうやらいい内容ではなさそうだ。掴みかかるようにチョロ松に迫られたカラ松は秘め事でも言うように、小さな声で言う。

「耳の無い琵琶師といえば、耳なし芳一じゃないか?」

「にっ・・・日本昔話の?!」

「言われてみれば・・・」

耳なし芳一といえば、盲目の有名な琵琶師が目が見えないことから相手が幽霊と気付かず琵琶を弾き語り、寺の和尚に身を案じられ身体中に経文を書いてもらうも耳の経文を書き損じ、耳だけを幽霊に持っていかれる、というちょっぴり怖い昔話だ。

「ぼくが見た人も腕とか足に黒い点あったよ!!多分お経!」

「でも十四松が会った男があの話の芳一だとして、なんで十四松に耳と琵琶を?」

「ってか話の流れからして耳は幽霊に持って・・・・・あ」

「次はなんだよトド松、俺もう昔話の幽霊がいるってだけでお腹いっぱいなんだけど」

これ以上何かあるのかとげんなりするおそ松だが、気付いてしまったらしいトド松はピシリと固まってしまう。それを見たカラ松は頷いた。
さぁ皆様もお考えいただきたい。

「おーいトド松ー?焦らすなよー、なんだよ気になんじゃん」

「なぁ、オレはどうも物覚えが悪いからあまり話の内容を覚えていないんだが」

「なんだよカラ松、今は昔話なん・・・あっ」

「チョロ松兄さん?」

「チョロ松までなんだよ?
俺ナゾナゾとか苦手なんだけど」

「は、話の通りなら、い、今ッ・・オレ達が、対峙しているのは・・・」

「話の通ッ、・・・ま、ままままさッ、まさかッ?!!」

「ハッ!!」

「あのさぁそろそろマジで怒、・・・あ」
 

耳なし芳一が語るは平家物語、壇ノ浦の段

鬼をも泣かす弾き語り

七日七晩墓の舞台にて琵琶を弾く

客席(墓石)に眠るは
 

「し、下にいるゴースト達はッ・・・」
 

“平家一門” 「・・・平家の怨霊」
 

バッターン!

「イチマァアアアッツ!!オーマイブラザアアアアッ!!!」

「お父様お母様、先立つ不孝をお許しください南無阿弥陀仏」

「一松兄さん死なないでぇえええっ!!
兄さんが死んだら誰がこんなおっきい結界張るのぉっ?!」

「おま、そういう問題じゃねぇだろ!!」

「まだ死んでないから!!死ぬと決まったわけじゃないからっ!!!」

「じゃあてめぇどうにか出来んのかクソ松ぁあ゛ん?!」

「強気ィッ?!」

「平家って一族全滅したやつ?!ナントカの戦い?!!
むちゃくちゃ怒ってるよ!!すっげーヤバイね!ぼく達呪われるかも?!」

「うわマジ?俺ら祟られんの?
歴史の授業受けとけばよかった・・・勝ち目ねぇだろ・・・・話合う気がしねぇわ」

「この期に及んでまだ話し合いしようとしてたの?!バカなの?!!
あと洒落にならないから十四松兄さんやめてっ?!」

「勝ち目?!戦う気も起きねぇわボォッケ!!
怨念の年季が違ぇんだよ!」

怨念の年季 #とは。
6名敵の正体を暴き大混乱。平家と言えば海に人を沈めたり怨念が蟹となったり・・・つまりは昔に実際にあった戦で実際に一族が全滅している。現代人が彼氏が憎いだの家族が恨めしいだの短命だったから体が欲しいだの、そんなものはまだ甘い。遥か昔より続く怨念は強く根深く、そして濃い。
視える人間に危険な幽霊ベスト3を聞くと必ず動物霊が出てくるが、それと同等に昔の怨霊というのも必ずランクインしてくるほど。それほどに危険なモノだった。
故にこの大惨事である。

「マジにヤバイやつかよ
うわ死にたくねぇなー」

「言ってる場合?!ボクら祓えないのにさぁっ!
いくら一松兄さんの結界でももう1時間もたないよ?!」

ビシッ・・パキッ・・・・

「ごっ、ごめん・・・10分もつかわかんない」

「ンン゛ン゛ッ!!!」

「おおお、おお落ち着くんだブラザー!!
こっこここういう時こそくくクールになってだな!!!」

「お前が一番落ち着けクソ松!玄関だけでいいから結界張って来い!」

「使えそうな物がもうないんだよ!」

「ぼ、ぼく落とし前つけてきやす・・・!!」

「やめろバカッ!相手は本物の武士なんだぞ?!
刀みたいなのも持ってたしいくら人間やめてるお前でも!」

玄関へ向かおうとする十四松の腕を慌ててチョロ松が掴む。例え過去にとある小さな神社の荒神をバットでぶん殴って除霊(物理)した彼でも今回は相手の格が違う。しかしこのままではいずれ玄関を突破されて共倒れだ。

ッバァン!!

「ヒィッ!!」

「とっ、とりあえず1階に戻んぞ!総員退避!退避ーっ!!」

「「「「「うわぁああああっ!!!!」」」」」

先程窓から顔を出したのが悪かったのか、閉めた窓に黒いモヤがかかり、ギシギシと此方側へ押してくる音が聞こえてくる。悲鳴を上げる格子と透けて見える外のそれに6人は慌てて部屋を逃げ出し階段を駆け下りた。
居間に戻ると風を通すために開け放っていた襖も閉め、6人1か所に団子となる。
相手の狙いは恐らく、というか確実に耳と琵琶、もといあの男だ。しかしこれを向こうへぶん投げようにももう外に繋がる窓やら戸やらを開けるだけの余裕もない。今は一松の結界により家全体を補強している状態。結界が壊されればたちまち壊され押し入られるだろう。そうなれば確実に憑り殺される。

「祓い給え清め給え祓い給え清め給え祓うぁぁぁぁもうやだああああっ!!!」

「平家様平家様お帰りください平家様仏様神様ァァアアアアッ!!!!」

「チョロ松それこっくりさんだろ?!」

「この際助けてくれるなら狐でも狸でもいいよ!!」

「そういう意味じゃない!クールダウンだチョロ松!!」

「ヤバイ・・・もっ、もうだめだ・・・!!」

「こっ、これ向こうに打ったらどうにかならないかな?!
耳と琵琶わたせばなんとかなるかも!!」

「お前が打ったら空中で爆散しちゃうだろうしなー
んー、なんか、なんか・・・」

あ、とここでおそ松はピンときた。浮かんだ策は自分としてはかなり妙案、だが確実にうまくいくかと聞かれれば答えは『わからない』。
しかし阿鼻叫喚の弟達を見て、現状を見て・・・もう一か八かやるしかない、彼は決心する。

「十四松、」

「あいあいっ!なんすか兄さん!!」

「あいつらがこっちを認識できなくなるまで結界重ねられるよな?
俺たち全員囲ってさ」

「えっ・・・で、でもぼくはあんま大きいの作れないから」

「大きさは他の松で支えりゃなんとかなんだろ」

「さっき十四松が囲って駄目だっただろ?!何考えてんだよ!」

ガンッ! ドンッ!!
 バキッ・・・ パキンッ、ベキッ

「話の通りならあいつらもそうだと思わねぇ?
・・・・ってかもう、そこに賭けるしかないんだよねぇ」

参ったというようにおそ松は苦笑いを向ける。
一松の結界はもう限界。あと5、6発も入れられれば崩れるだろう。
もう、他に道はない。

「ッ・・・!やるなら早くしろっ!!一松もう限界なんだろ?!」

「あと3回やられたらぶっ壊れる!!」

「10発もたせろ!いいな?!
屋根裏に行く時間はないからここで補強!!十四松はその間に俺たちとそれ囲え!」

「ここからっ?!無茶言うなよ・・・!!」

「あいあいさーっ!協力オネシャス!」

「仕方がない一か八か・・・ソウルが詰まったこの琵琶!借りるぞ!」

「俺も固定派だから少しは手伝うって」

「ヒヒッ・・・全然頼りにならないんだけど」

「十四松兄さん早く!!ボク結構大きいの張れるからそれに乗せて!!」

「うん!ありが盗塁王!!」

即座にその場でしゃがんだ一松は以前にこんなこともあろうかと予め床下に仕込んでおいた札へと意識を集中させ、これを屋根裏に使用しているものとリンクさせて見えない柱を生成する。これに習いおそ松も同じく力を入れ込み強化、しかしその間にも向こうの攻撃は続き、修復したそばからビキリ、とヒビが入る。
2人が時間を稼いでいる間にもちゃぶ台の上にある琵琶を乱暴にひったくったカラ松は、これを媒体として十四松の気と合わせ結界の範囲をじわじわと広げていく。そこにトド松とチョロ松が加わり、急速に広がる結界は6人と琵琶と耳を囲った。

「これが限界ッス!!」

「よし!!こっからあいつらがいなくなるまで誰も喋んなよ?!」

頷いた彼らは口を塞ぎ、結界の中で固まって身を寄せ合う。尚も外で続く結界を叩き割る音と怒声。
全ての気配は消した。昔話と同じであれば、彼らは”此方が見えなければ素直に諦める”筈なのだ。これだけ攻撃を仕掛けてきている輩が、求めていたものがないからと「はいそうですか」と帰ってくれるとは思えないが、これが出来ることの精一杯だ。
ビシンッ!バキンッ!と着実に砕かれていく結界に彼らは余計に縮こまる。やはり駄目か・・・!!
あと1回、受けたらお終い、というところで唐突に攻撃がピタリと止んだ。怒声も同じく外の気配すら掻き消えるのを感じる。
何事かとチョロ松が口に出そうとしたのをトド松が抑え、暫くそうして6人固まっていると

「すみません、黄色のお方
芳一で御座います」

ガラガラガラッと玄関の戸を開ける音。一松の結界は悪意のある者以外は中へ通してしまう。
玄関から入って来た気配は居間の襖を開け、奥から経文を体中に綴った男が姿を現した。ここで十四松が「ぶつかった人!!」と指を指して声を上げる。
男は固まる6人の前に正座すると、深々と頭を下げて礼を言った。

「私の命の次に大事な琵琶と、私の耳を守っていただき、有難う御座いました」

「・・・終わった?」

「はい、皆さまのお陰で亡霊は去りました」

「もう来ないっ?!うちにカチコミ来ないっ?!!」

「はい、此方に私がいないと知り、出て行かれました
この付近に現れることはもうないでしょう」

「ぼくら・・・生きてる」

「い゛き゛て゛る゛ぅぅ・・・!!!」

「ったはー・・・よかったー・・・!!」

「ど、どうなるかと・・・」

確認すれば6人全員無事にそこにいる。家を囲う結界はボロボロだったものの、最後の一発まで耐えきっていた。
緊張が解け、慣れないシリアスモードに力の抜けた6人はその場にへばってしまった。もうこんなことは二度と御免だ。そもそも話、彼らは自らの体質をわかっている分、どれだけいたずら好きでも、如何に面白そうでも幽霊関係のことに首を突っ込もうとはしない。全ては目の前にいる男のせいなのだ。
落ち着いてくると次は怒りがわいてくる。自分達をこんな怖い目に合わせたのはこの、耳なし芳一で間違いない。
てめぇどのツラ下げてのこのこ出てきやがった?!と全員でまくし立てようと一斉にザッ!と立ち上がる。が、芳一は慌てるでもなく、いや、そも彼は目が見えていないから6人が激おこぷんぷん丸状態であることをわかっていないのだが、下げていた頭を上げると目を閉じたまま口で弧を描いた。

「お礼といっては難ですが、どうか私の弾き語りを聴いてはいただけませんでしょうか」

「はぁ?!こんだけ怖い思いさせてそれだけ?!
ボク達のこと舐めてんの?!」

「金寄越せ金ッ!!こっちは死んでるお前と違って命かかってんだぞ?!い!の!ち!!」

「ふざけんなケツ毛燃えるわっ!!
琵琶師だかなんだか知らないけど赤の他人にあんなモノ押し付けるって非常識じゃない?!?!!」

「オレ達が殺られたらどうするつもりだったんだ!!!」

「お前絶対ぇ許さねぇ・・・!!あの邪気の残りで一週間は猫近寄ってこねぇぞッ!!!」

口々に罵り始める6人を前に、聞こえている筈だが全てを無視して強制弾き語りライブ、松野家の居間スペシャルを勝手に始める芳一。天然なのかわざとなのか・・・・。
 

兎にも角にも、結局は鬼をも泣かせる弾き語りにものの見事に号泣することとなった6つ子は、自分の墓へと帰る芳一の背に手を振って、気を付けるようにと彼を見送ったのである。

この後数週間後、とある理由で呪いの類の事件に巻き込まれることとなることを6つ子達はまだ知らないし、そこで悪霊共に追い詰められ、彼に助けられるのもまた別のお話。友達は正体がなんであれ作っておくに限るだろう。
後日談は皆々様の心の中に(多分)。

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