犬嫌いな一松と人面犬

お題:人面犬/グレープフルーツ三世一松小説

今日はとてもいい天気。
散歩日和だ。まあ、クズでニートな燃えないゴミに良い日も悪い日も関係ないのだけれども。

ニャーオ

いつもの散歩道を歩いていれば、最近よく懐くようになった黒猫が僕の足に身体を擦り付けてくる。
「・・・おはよう」
この黒猫は珍しいことに人間に持ち上げられても嫌がらない。どこかで買われていたのかもしれない。
黒猫を抱きながら昼間は人の通りが少ない通りをゆっくり歩いていると、一匹の犬が自動販売機の前で丸まっていた。
「・・・・・・」
俺は犬があまり好きじゃない。あいつら追いかけてくるし、噛んでくるし。従順そうに見えても腹の中じゃ何考えているか分からない。
その点、猫は良い。気まぐれで警戒心が強過ぎるけど、一度心を開いてくれると犬なんかよりもずっと懐いてくれる。
犬が反応しないように気配を消してそっと横を通り過ぎようとすると、黒猫が威嚇した。
「・・・おい!」
黒猫がスルリと腕から抜けると走っていってしまった。
「・・・・・・」
折角いい気分だったのに。全部犬の所為だな、と八つ当たりをしつつ足早に歩き出した瞬間、

『ここに五百円玉落ちてるぞ』

どこからかオッサンのような声がした。
「・・・・・・?」
辺りを回しても、人は居ない。
居るのは一匹の犬だけ。

『無視すんなって』

喋っているのはどうやら、この犬らしい。
よく見ると、犬のフォルムにオッサンの顔がくっついてる。完全に犬とオッサンのコラボレーション。
「・・・・・・あ、財布忘れてきた」
俺はそう声に出して、言った。そして今世紀で一番本気で走った。
なにあれ、気持ちワル!昼間から気持ち悪いモン見た!

ひたすら走ってなんとか家に辿り着くと、暢気な声で「おかえり」と聞こえた。
「一松兄さん、なに息切らしてるの?マラソンでもしてたの?」
不思議そうな目で見てきたのはトド松。もしかしたら、あの生き物のこと知ってるかもしれない。
「・・・・・・・・・ねぇ、犬にオッサンの顔付いた生き物知ってる?」
「いきなり何!?てかそんな生き物知らないし!知りたくないし」
「その文明の利器で調べてよ」
「無理!僕のスマホでそんな訳分かんないモノを検索したくない!履歴にも残したくない!」
そんなことを言う末弟を力でねじ伏せ調べさせた所、あの生き物は人面犬というらしい。詳しく書いている記事は無くて、とりあえずオッサン臭いって言うのだけは分かった。
 

次の日、同じようにあの通りを通ろうとすると黒猫がいつものように足下に寄って来た。
「・・・・・・とりあえず、害はないみたいだから行ってみる」
黒猫に語りかけてみた。通じているかどうか分からないけど。
歩いていくと、昨日と同じ場所に人面犬が居た。

『ここに五百円玉落ちてるぞ』

デジャヴ。
黒猫は威嚇して、やっぱり向こうに行っちゃったし。
化け物の言ったことを信じるのは本当にばからしいけど、恐る恐る自動販売機のすぐ近くを見てみると。
「・・・あ、ホントだ・・・・・・」
五百円玉が落ちてた。それを拾うと、人面犬はどこかに行ってしまった。
「・・・・・・」
人面犬ってこんな感じな訳?
 

次の日も、その次の日も毎日、自然とあの道を通ってしまった。その度に、
『あっちにエロ本落ちてた』
『缶コーヒーの取り忘れがある』
『この先、職務質問してるポリ公がいる』
『新作手に入った』
とか、沢山語りかけてくる。
もしかしたら、同じ犬でもオッサン要素が入ると良いヤツになるのか?化け物に良いヤツっていうのもおかしいけど。
黒猫は俺に寄って来ては人面犬を威嚇してどっか行くし。ちょっと癒しが足りなくて。犬の方が良いかもとほんの少し思ってしまう。

 
 

今日も散歩がてら人面犬に会いに行く。

にゃーお

「・・・お前はいつも来るのにすぐ逃げるよな・・・」
猫からしたら犬なんて威嚇対象だし、ましてや化け物だし当たり前なんだけど。
いつものように抱き上げようとすると、それを嫌がるかのように向こうへ行ったかと思うと、数メートル先で止まる。そしてこっちをずっと見ている。
「・・・・・・?」
いつもならそのままどっかに行ってしまうのに。
「どうした?」
猫の方に駆け寄ると、また少しだけ進んでは止まる。
「・・・・・・」
なんか今日は、いつもと違う。
人面犬も居ないし。
黒猫との追いかけっこを繰り返していると、ようやく猫が俺の腕の中に収まった。
「今日はどうした・・・?」
猫に話し掛けたら、
 

『避けろ!』
 

聞き慣れたオッサンの声が聞こえた。それは、いつものような気だるい声じゃなく、緊迫した声で。
「・・・・・・!?」
人間と言うのは、どんなに避けろ!とか上!とか言われても、身体は動かないもので。
俺は猫を抱いたまま、一歩も動けなかった。
なんとか一歩を出そうとした瞬間。
 

ドーン!ガシャーン!
 

大きな音を立てて、上から鉄板が落ちてきた。
「・・・・・・!!」
今まで人は居なかったが、音に気付いて野次馬やら工事現場の人やらがわらわらと集まって来る。
「君、大丈夫!?」
「救急車呼んで来い!救急車ぁ!」
静かだった場所が大騒ぎになっている。
俺はというと、ただ呆然に立ち尽くしているだけだった。
たまたま、縦横三メートルはある鉄板に人一人が入る分の円があいていて、俺はそこに上手くはいっていた。一歩でもズレていたら、完全に下敷きになっていたと思う。
念のため、病院に運ばれることになり、安全であろう壁際で救急車を待つ。
鉄板が落ちてきても微動だにしなかった黒猫が、裏道に向かって威嚇をし始めた。そっちに目をやると、あの人面犬がこっちを見ていた。

『・・・チッ・・・・・・面白いモンが見れると思ってたのに』

それだけ言うと、どこかに消えてしまった。
救急車がくると、黒猫もどっかに行ってしまった。
 

病院で怪我が無いことが分かると、すぐに帰された。
「一松、大丈夫だった?」
「フッ・・・流石ブラザー、神に愛された男だ・・・」
「ホントに焦ったよ、結構ニュースになってたし」
「一松にーさん、運良いね!」
「心配かけないでよねー」
兄弟らしい言葉を聞くと、何故かホッとする。そんなキャラじゃないんだけど。
ニュースだと、あの時間あそこを歩いていたのは俺だけで、怪我人も居なかったらしい。
「ほーんとにラッキーだったよなー」
「むしろアンラッキーだったんじゃない?鉄板が落ちてきた時点で幸運じゃないでしょ」
「どーしたの、一松にーさん?」
幸も不幸もどうでも、いい。
とりあえず。

「・・・・・・やっぱり、犬は好きになれないって思っただけ」

 
 

[chapter:《犬嫌いな一松と人面犬》]

 

今度見つけたら、ただじゃおかない。

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