五月人形

お題:オリジナル/津田丸チョロ松小説

「……いやあ、怖かった!!!」

暗い部屋の中、蝋燭をのせた食卓を六人が囲んでいた。

「鳥肌スゴいっす!!!!!」
「そう?今のはそんなに怖くなかったけどなあ」

全力で震え上がり、最早瞬間移動みたいになっている十四松の横で、トド松が余裕そうに話す。

「とか言ってトッティ、後半足スッゴい震えてたよね。ヒヒッ」
「そういう一松兄さんこそ、途中顔面蒼白で息止まってたじゃん!!!」
「一松にーさん怖がり!!!!!!!」
「十四松!!!!でかい声だすな!!母さん起きる!!!」
「フッ、安心しなブラザー。怖いときはこの俺の胸にとび込んで「黙ってろクソ松」
「えっ」
「次、誰だっけ?」
「えっ…….」

全員が黙ったところでおそ松が言う。

「次は…..あ、チョロ松だ」

チョロ松は待ってましたと言うように姿勢を正した。

「おっ、チョロちゃん、なんかやる気感じるね~」
「なになに?なんかいい話知ってるの??」

おそ松とトド松の問いに少し笑顔になって答える。

「うん、何故ならこれは僕が実際に体験したなかで一番怖かったからね。」

ゴクッ…..
5人一斉に唾を飲み込む音がした。

チョロ松が蝋燭を手に取る。

「んじゃあ、子供の時、って言っても高校生のときに僕の身に起こった話をするよ。
たしか、僕らが高校二年の子供の日だったかなあ…」

 

★★★★★

 

「いーらーかーのなーみーと、くーもーのーなーみー♪」

子供達の楽しそうな歌い声が聞こえる。
その歌のように、街の至るところで鯉のぼりが天高く泳いでいた。

その日松野家はというと…..

「なぁにが、鯉のぼりだー!!もうガキじゃねんだからこんなことやめにしようぜ~」

休日なのに高校の制服に着替えながらおそ松がぼやく。
他の兄弟もだるそうに支度をしていた。

「ぐちぐち言ってないでさっさと準備する!!」
「いてっ」
たまたま居間にいた松代にこずかれた。

松野家では毎年端午の節句になると近くの神社へ行き、お祓いをしてもらうのだ。
まあ、伝統を大切にするっていう家だったし、生まれてきたのが全員男っていうのもあったのかもしれない。
しかし、いくら伝統行事だからと言って、結局は神社に行くだけだったから、幼い頃からつまらないと感じていた。

「カラ松と十四松はいいなー」
「そういえば兄さんたち部活だったよね」

その年、カラ松は演劇部の合宿、十四松は野球部の練習試合で家にいなかった。

「あのこたちは仕方ないでしょ。部活忙しいんだもの」

「俺も部活入ればよかった…」
一松がボソッと呟く。

一松の言うとおりかもな、とチョロ松が苦笑いした時だった。

視界に何か、光るものが入った。
その方向を向く。

兜を被った人形だった。
端午の節句になると鯉のぼりと一緒に押し入れから出されるのである。

昔は、戦国武将みたいでかっこいい兜に憧れてたっけ。

もう自分の頭に入らないであろう兜を見つめた。
壊れてはいないものの少し埃ぽい。

「おーい、チョロ松行くぞー!!!」

ハッとして見るともう部屋に誰もいなかった。
待ってよ!!と兄弟たちの後を追いかけた。

 

★★★★★

 

「ふは~、疲れた~」
「もう歩きたくな~い~」

長男と末弟が玄関でねっころがる。

「流石に高校生になってこんなことやってるの、うちぐらいだよなー」
チョロ松はそう言いながら部屋に行き普段着のパーカーに着替える。

「僕はもう諦めてるけどね」
一緒にいた一松が呟く。
「一松って受け入れるの早いよね」
「まあ、あの神社結構好きだから….猫もいるし」

結局猫かよ、と思った矢先。

「そういえばさ、チョロ松兄さん、神主さんになんか言われてなかった?」
「ああ、うん。別に大したことなかったけど」

 

神社でおみくじを引き、境内の木に結びつけていた時だった。

「お前、つかれやすいのお。」
「へ?」

振り返ると年老いの神主が立っていた。
昔から神社に来ていたのでこの神主さんとは知り合いだ。今日のお祓いも彼が担当してくれた。

「疲れやすい、って、ああ、最近学校が忙しくてよく疲れますけど」
はは、と笑いながら答えると
「そういうことじゃない」と返された。
「お前さん、昔から他の子たちよりも霊とかそういうのに憑かれやすいみたいでのお。少し心配なのじゃ。」
頭の中がはてなでいっぱいになる。
「まあ、今年は今のところ大丈夫そうじゃが…..」
神主が顔をしかめる。

突然「おぉ、そうじゃ」と思い出したかのように懐から何かを取り出して、チョロ松の掌に置く。

御守りだった。

「これを持っておれ。神様がお前を守ってくれる」
「え、でも…..」
「はっはっはっ、なぁに、金はいらないさ。さあお母さんのところにお行き。みんな待っとる」

神主は笑いながら、社務所の中に消えていった。

 

「…でも僕、あまり幽霊とか神様信じてないんだよねー」
チョロ松はそう言って今日もらった御守りを見る。
薄い緑の袋に『災厄消除』と刺繍されている。香木のいい香りがした。

「一応持ってたら?あの人見えるって有名じゃん」
一松がさらりと放った言葉に驚く。
「えっ、そうなの!!?」
「そうだよ。」
「知らなかった!!!やっぱりこれ持ってた方がいいかな!?」
「…..。」
「そう言えばさっきからなんか視線を感じるんだよね…」

家に帰って来た時からだったか。
何故か誰かに見られてるような感じがするのだ。

「…チョロ松兄さん人の話に振り回され過ぎじゃない?」

一松はそう言って部屋を出た。

「え…」

数秒後、ご飯よーと松代の声が聞こえた。

 

★★★★★

 

夕食は、ちまきやちらし寿司、柏餅などいつもより豪華だ。
子供の日唯一の楽しみである。

「あとの二人の分は取ってあるから好きなだけ食べていいわよ。」

おそ松が「よっしゃー!!!!」と叫びご馳走にがっつく。それが合図のように他の兄弟も手を出す。

「ちょっと一松兄さん手羽先食べ過ぎ~」
「トド松お前がそれ言う?柏餅食いながらちらし寿司食うとか」
「あっ、チョロ松ー!立つんだったら俺コーラな」
「自分で持ってこいクソ長男!!!!」
「はぁ!?ひどくね!!?」

夕食はとても盛り上がった。
しかし、「見られてる感じ」は消えなかった。
食べ終わった後、全員しばらく居間でごろごろとテレビを見ていた。

「ねえ、アンタたち」
「ん、なぁに」

松代が居間に入ってきた。

「ごろごろしてないで片付け手伝いなさい。」

「え~、面倒くさい」
ほぼ同時に全員が同じ言葉を言う。
松代は
「ふーん、あらそう。ならいいわ」と言い、続ける。
「実はまだ柏餅有るんだけど」

「「「「やります!!!!」」」」

((((….食べ物で釣るのはズルいぞ、松代))))

四人ともそう思った。

「よろしい。ならおそ松は父さんと鯉のぼり降ろしてきて。トド松は私と一緒に皿洗い、一松は洗濯物畳んで。チョロ松は….」

少し考えた後、

「そうだわ!そこの人形綺麗にして片付けておいてくれるかしら」

人形、出かける前に見たやつのことか。

「えっ、でも母さん、人形の手入れなんてやったことないんだけど」
「簡単よ、その兜を雑巾で磨けばいいの」

そう言うと
「ほら、分かったらさっさと動く。」
手を叩き、立つように促す。

4人はぐずぐずと立ち上がってノロノロと持ち場についた。

 

★★★★★
 

「あまり触りたくないんだけどなー…」

チョロ松はそう言って人形から兜を慎重に取り出す。
潔癖な彼は、飾り物に手垢を付けるのがあまり好きではない。
新品の雑巾で兜を拭いていき、人形の上に被せようとした。

あれ……?

チョロ松は人形の顔を見て何かに気がついた。

「この人形こんな顔してたっけ….?」

彼の記憶の中では人形は微笑んでいるような表情をしていたはずだ。
なのに今目の前にいるのは少し怒ったような顔をしている気がする。
成長して目線が変わったせいだろうか?
そしてその人形の目はこちらを睨めつけるような眼差しだった。

……違和感。

(今日一日中誰かに見られてるような感じ…..もしかしてコイツが….?)

ガコッ。
鈍い音と同時に両手の重力が一気に軽くなった。

「え?….うあああああああ!!!?!!?」

どうやら人形に目がいっていたせいで兜を落としてしまったようだ。

「ど、どどどどどうしよう!!?!??!!ああああああ先っぽ取れちゃってる!!!!!!」

よく見ると兜の飾りが一部折れている。
だが、なんとか直せそうだ。

「とりあえず、接着剤!!!!!!」

チョロ松は接着剤を探しに急いで居間を出ていった。
結局、接着剤が乾くまで箱に仕舞えないため今夜中は出しておくことになった。

 

★★★★★

 

「しっかし珍しいなー?チョロ松が物を壊すなんてさ~」

布団を敷きながらおそ松が言うと「確かにね~」とトド松が頷く。
チョロ松は物を大切にするタイプだったので他の兄弟にとっては奇妙な話だったのかもしれない。

「うん、なんか自分でもびっくり」
チョロ松は少しボーッとしながら答える。
今日は色々なことがありすぎて…..もう、正直疲れた。

布団の中に入って寝ようとすると一松が聞いてきた。
「でさ、その人形大丈夫なの?」
「え、あぁうん。一応兜はくっついたみたいだし」
「そう…..」

「チョロ松兄さん気を付けなよ?」
「へ?」
「人形って魂が宿るんだってさ。そいつらが嫌がるようなことをすると呪われるらしいよ」
「!?」

チョロ松は一松の言葉に飛び起きた。

「えー、今ので驚いてんの~!?」
「チョロ松兄さんビビり~!!」
黙って聞いていた長男と末弟が茶化し始めた。
「うっっっっっさい!!!!!もう寝るぞ!!!!!!!!!」
「あべしっ!!!!なんで俺!!?」

チョロ松はおそ松に枕を投げつけ電気を消して布団に潜り込んだ。

 
★★★★★

 

……
……….
………………

どうしよう……

 

眠れない!!!!!!!

チョロ松は時計が午前1時を回っても一向に眠れなかった。
目が冴えてしまっている。
隣ではおそ松がスー、スー、と寝息をたてていた。

(ああああ、一松があんなこというからぁ!!!!!!)

枕で殴りたかったがそれだと他の奴らが起きてしまう。

もういい加減寝ようと目を閉じたときだった。

(あれ、体が動かない…)

 

 

コ……ワ

 

…コ….チ……ワ

 

 

……..コンニチワ

 

(!!!??な、なに!!??!?)

耳元で誰かが囁いている。

コンニチワ、コンニチワ、チワ、コニチワ。

チョロ松は最初は誰かのいたずらかと思ったが、すぐに誰の声でも無いことに気がついた。
まるで、幼い子供のような小さいものだった。

(僕たちの中にこんな声出せるのはカラ松ぐらいだけどアイツ今日いないし!?!ホント誰だよ!!!ああもうどうしよう体が固まってるこれ俗にいう金縛りってやつ!?あああああああ寝返りも出来ねー!!!!!)

彼の頭がパニックになっても「こんにちは」の連呼は続く。
一か八かでなにか行動を起こさなければ。

(とりあえずどっかいってくれえええええええええええええ!!!!!!)

ん、げほっげほっ。

咳払いをしてみる。

 

キーーーーーン

 

突然強い耳鳴りが聞こえる。
耳が痛くなる。

キーーーーーン…..

耳鳴りが小さくなるころにはもう金縛りが解けていた。
目を開け、ゆっくり起き上がる。

「一体何だったんだろう….」

横には寝息をたてて眠る兄弟たち。

「トド松….トド松….」

隣にいたトド松を起こそうとしてみるがうーん、と寝言を言うだけだった。

(チッ、トイレのときは俺のこと叩き起こす癖に)
チョロ松が心の中で愚痴を吐いた時だった。

タッタッタッ…..

「!?」部屋の外から誰かが走り去っていくような足音が。

(この音、階段を降りていく音だよな?どうしよう後をついていこうか……いやいやいや何でそうなる!!?べ、別に幽霊とか信じてないし??あー、でもめっちゃ気になる!!!)

そして好奇心に負けたチョロ松は足音の後ろをついていくことにした。

 

★★★★★

 

(確かこっちの方だったような….)

チョロ松の手には懐中電灯と昼間にもらった御守りが。

タッタッタッタッタッ

足音がピタリと止まった。

(音が鳴ってたのは多分居間だよな…)

居間の前で足を止める。
あたりはシーンと静かだ。
ふすまを少し開けて中を覗く。

ん?

ちゃぶ台の下で何かがうごめいている。
そぉっと、近づくとそれは黒猫であると気がついた。

「なんだよ猫か…一松のやつまた外に逃がすの忘れてたな。」

一安心し、黒猫を抱き上げる。

「暗いけど気をつけて帰りなよ」と窓を開けようとした瞬間だった。

 

フフフ

 

パカッ

 

 

「え、」

 

イタダキマァス

 

 

思わず手を離した。
猫の口が突然大きく裂け、チョロ松の顔目掛けて突進してくる。

「ひっ…!」

あり得ない出来事に頭が混乱しながらも居間を出て必死に逃げ惑う。
足がすくみ上手く走れない。
猫の化け物も後を追う。
しかし、行き着く先はすぐ目の前の台所だ。隠れる場所もない。

(ぎゃああああああ!!!!なんで玄関方向に逃げなかったんだろ俺!!!!あ、でも包丁とかが武器に…..いやいやいや、物騒だしあんなやつに効くわけないよな!!?)

助けを呼ぼうにも声が出せない。

振り返るともうそこまで来ていた。

化け物の目がチョロ松を捉えると、ニヤリと涎を垂らし笑う。

 

ミイツケタ

 

「あ、ああ…….」

シンクの前にへたっと座り込む。

(もう、だめだ…..)
そう思った瞬間だった。

諦めて目を瞑る。

 

 

コンニチワ。

「え…..?」

この声は….。
突然、目を閉じていても分かるくらいあたりが明るくなった。
おそるおそる目を開ける。

すると台所の入口の前に兜を被った人形が座っていた。

シュウゥゥ

チョロ松を襲おうとしていた化け物が光と共に人形の口の中に吸い込まれていく。

「!??」

チョロ松はその異様な光景に驚きを隠せない。

シュウゥゥ….

「フゥ、オナカイッパイ」

人形が全て吸い終えると、キコキコと音を立てながらチョロ松に近づく。
彼は何がおこったのかさっぱり分からないまま、ただ目を見開いていた。
やがて、人形がチョロ松の目の前に来た。

「チョロマツクン、コンニチワ。コワカッタネ。デモモウダイジョウブダヨ。」

そう言うと、人形は小さな手でチョロ松の足に触る。

ふと、強い眠気に襲われる。

「あ、り、がと、う……」
せめて礼だけは言っておきたかった。
眠り落ちる瞬間、

「ズットマモッテアゲルカラネ」

人形はそう言っていた気がする。

 

★★★★★

 

「…..で、その次の日、僕は台所で高熱を出して倒れてるところを発見されて、その年の5月6日休んでたってわけ。」

チョロ松が真剣に語るなか、弟たちは恐怖に怯えていた。

「ちょ、ちょっと待ってよそんなの初耳なんだけど…」と一松。
「もうやだあああああああ!!!!!一生トイレ一人でいけなくなっちゃったよおおおおおおおお!!!!」とトド松。
ただひたすら白目向いて小刻みに揺れていた。
「へー、あの日そんなことが…」
「この家って出るんだな~」
呑気そうに聞いていたおそ松と当時家にいなかったカラ松はチョロ松の怪奇譚を不思議そうに聞いていた。

「おそ松兄さん鼻ほじんないで」
「へいへい、チョロちゃん話はもう終わり?」

「あ、忘れてた。実はその時に持っていた御守りなんだけどね…」
そう言って彼の手にもっていたものを見せつける。

「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!!?!???!!!!!」

瞬間、兄弟一の怖がりであるトド松がこの世のものとは思えない悲鳴をあげた。
チョロ松の手に握られていたのは、ビリビリに破かれた御守りだった。
それも何か爪の鋭いものに引っ掛かれたように裂かれている。

「なにそれ….」
「次の日に母さんが、僕が倒れてたところにこれが落ちてたって言ってたんだ。松代も相当ビビってたよ。」
チョロ松が淡々と答える。
「どうしよう、お兄ちゃん幽霊とかよりチョロ松の態度が一番怖い…」
おそ松が言った。

ガタガタガタ…..

一松は十四松が未だに震えてることに気がついた。
何故か顔も青くなっている。
「十四松大丈夫?」とそっと聞く。
すると彼はゆっくり押し入れの方を指した。

「どうしたの十四松?」
他の兄弟も気がつく。

口を開いた。
「おれ、ずっと気になってたんだけど…..

 

 

押し入れからたまに笑い声や怖い声が、聞こえるんすよね…」

「え?」

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