歩道橋の人

お題:歩道橋/公卿カラ松その他小説

 とある公園の、屋台のおでん屋で僕は、久しぶりに演劇部の先輩に会った。
これはその時に先輩から聞いた話。

その日は部活で帰りが遅くなった。
なので、少し近道をしようとして、歩道橋を渡ろうとしたらしい。
その歩道橋では、一ヶ月前、若い女性が刺殺されるという事件が起こっていた。

犯人は目撃者の証言から背が高く細身の男。帽子を被っていたため、顔などは分からなかったらしい。犯人は捕まっていなかった。

そんなことがあったものだから、あまり気乗りがしなかったが、彼の家には育ち盛りの兄弟が彼の他に5人もいる。遅く帰れば夕飯を食べそこねる事態になりかねない。しかも、その日は大好物の唐揚げだったらしく、先輩はかなり焦っていた。

人が全くいない歩道橋を渡っていた時、彼は通路に、背が高くて細い人が立っているのに気がついた。辺りは暗かったが、雰囲気で何となく男だと思ったらしい。

その人は先輩に気がつくと、手を挙げ、ニマッと笑い「おいで おいで」のしぐさをしたそうだ。

不気味に思った先輩は、その人の反対側を走って通り過ぎた。
その時、耳元で「チッ」という声が聞こえ、振り返ってみたが、誰もいなかったらしい。

先輩は急いで家路に着いた。

翌日、男性が自宅で首をつって、亡くなっていたというニュースが流れた。死後一ヶ月は経っていたという。その男性の自宅から、血の付いたナイフが発見され、検証の結果、歩道橋で殺された女性のものであると判明した。

「あの時、歩道橋にいた人はなんだったんだろうな」
先輩はウィスキーと称した麦茶を飲みながら、そう言った。

ちなみに、その日の夕食であった唐揚げは、兄弟に全部、食べられてしまっていたそうだ。

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